2010-10-18

memo-輪島裕介『創られた「日本の心」神話』

創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史 (光文社新書)
輪島 裕介
4334035906
固有名詞の半分くらいは知らないけど、面白くて一気に読んでしまった。
たくさんの固有名詞が構造的で強靭な思考のもとに整理されていく文章のグルーヴ感のようなもののおかげではないかと推察される
「演歌」とは1960年代か昭和40年代に「日本の音楽」として成立したジャンルらしい。大雑把にまとめると。これがもう、「演歌」ってのは昭和初期までの演説師の街頭歌が先祖だと思ってた僕にはびっくりだった。
で、この本では、エンカというジャンルが成立するプロセスが検討されている。「「エンカ」が、いつ、いかにして、いかなる意味で、誰にとって「演歌」が「伝統的」「日本的」とみなされるようになったのか」(348)を、戦後大衆音楽史にかんする該博な知識に基づいて検証し、抽象的で論理的な思考でもって「エンカの誕生」を「国民文化」の創出に関わる一般的問題として検討できる地平にまで練りあげていた。
すごかったな。この問題をどうやって見出して、これだけの情報量をどうやって整理したんだろう。なかなかできるもんじゃないよな。
今後の戦後の大衆文化史の基礎文献のひとつとなるだろうから、これを参照せずに発言する人の言葉は聞き流したら良いと思うのだが、小林信彦か吉田豪が書評したら面白かろう、と思った。
目指せ「キラキラ」あるいは「大竹まことのゴールデンラジオ」ってことか。
違うか。

これが新書って、不思議。
研究書としても新書としてもどっちでも通用するだろうから、索引があれば良いのに、と思った。
あと、「エンカと呼ばれるようになった音楽」の諸特徴がよく分からんけど、これは「芸術学」ではないから、それはそれで良いだろう。
京大の人文研とかで研究できたら良いのに、と思った。

書誌情報:輪島裕介 2010 『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』 光文社新書 東京:光文社。


輪島裕介『創られた「日本の心」神話――「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』 第三部 第八章 - 昆虫亀:便利だ。「お富さん」は良いなあ。


20101103
ライムスター宇多丸のペラペラで初メディア露出となったらしい。
ベタボメやん。

軸にあるのは硬いアカデミックな内容だと思うが、「キラキラ」で言及されてた。
すげえな。
TBS RADIO 2010年11月03日(水・祝) ライムスター・宇多丸 ペラ☆ペラ  - 小島慶子 キラ☆キラ

2 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

感動的な書評ありがとうございます!
吉田豪に献本するの忘れてました。
新書になったのは単に「話が来たから」なんですよね(編集者に提示されたのはぜんぜん違う内容だったんですが)。最初は1970年前後の話だけで行けるだろうと思ってたんですが、その前のことを調べてるうちにどっぷりハマってしまいました。
でも論文だったら禁欲するところを勢いで書いてたりするので新書でよかったかなとは思ってます。
索引もなんとかしたいです(自分のためにも)。
「エンカと呼ばれるようになった音楽」の諸特徴」については、少なくとも先行研究をさらっと紹介しとくべきでしたね。なんとなくわかったつもりで流してました。
ということで、本当に書評ありがとうございました。学生にも宣伝してね。

中川克志(NAKAGAWA Katsushi) さんのコメント...

面白かったのです。
自分の専門領域と直接的には関係ないけど個人的には好みの音楽たちの話で、だからといって僕は詳しいわけではないしマニアな知識もあまり受け付けないのだけど、きっちりとした展望のもとで整理された考察と知識は、面白かったです。
僕にはできない。
授業中、何かのスキマをつくような感じで、さらっと学生にも宣伝してみますね。