2011-05-28

DVDで『Song Catcher〜歌追い人〜』(2000)

Songcatcher
マギー・グリーンウォルド
B0002Q2JU6
むかし@taninen の講義用ブログに参考資料としてあげられていて知って見たのだが、音響文化に関心があるものとしては、予想外にとても面白い映画だった。
(「感動のヒューマン・ラブ・ストーリー」としては、すべてのカップルの組み合わせについて辻褄があっていなかった気がする。一番理解できなかったのが、主人公の音楽学者と二回妻と死に別れた山男が、なぜ、恋に堕ちることになったのかさっぱり分からなかった。ただし「20世紀初頭のアメリカの山奥にいたレズビアン・カップル」を描いていたのは、『ブロークバック・マウンテン』より早い映画なので「へー」と思った。)
19世紀末のアパラチア山脈周辺では、山岳地方では周りと隔絶した生活を送る人々も多かったので、イギリスやスコットランドから移住してきた人々が本国ではなくなってしまったバラッドを歌い継いでいて、研究者や愛好家たちは、それらを蒐集することに務めていたらしい。それは「イギリスの正しいフォークソング」であると同時に、その頃には、「アメリカのフォークソング」として認識され始めていたらしい。ということを僕は最近は大和田俊之『アメリカ音楽史』(講談社選書メチエ)で勉強したのだけど、この映画の物語背景は、これ。
音楽学者の仕事は、貴重な文化遺産を守り世間に知らしめることだ、と述べる音楽博士が、アパラチア山脈で歌い継がれていたバラッド( love song)を、フォノグラフで録音したり採譜したりするうちに…という人間模様なお話。
だから、音響テクノロジーに」関心があるものとしては、「フォノグラフと五線譜で民謡を採譜している音楽学者」が出てきているのだから、面白かった。
最後のオチが「山の音楽のシリンダーを作って売るために山から出ていくこと」だったり。時代は「研究者仕事とか採譜とか」から「レコードを販売すること」へと移行していった、ということだろう。

ちょっと思ったのだけど、こんなふうに、採譜したり録音して「山のバラッドを採集して楽譜を出版する」という音楽学者に対して、採集される「山の人間」が、「泥棒め!」ということなんかあるのだろうか。つまり、その作業を、自分たちの文化的遺産の収奪だ、と意識してすぐに被害者感情を持つ、ということはあるのだろうか?
ないと思うのだが、やはりこれは、物語を推進させるための設定か? 物語の組み立ては結構ざつだった気がしたな。
面白かったけど。


歌追い人Songcatcher ~歌追い人~ - 映画作品紹介
歌追い人@映画の森てんこ森


アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで (講談社選書メチエ)
大和田 俊之
4062584972
ブロークバック・マウンテン プレミアム・エディション [DVD]
B000EXZA1W

3 件のコメント:

taninen さんのコメント...

僕が授業で紹介する時は、実際の伝承者によるBarbara Allenの録音も聴かせて、口頭伝承とヴァリアントの問題について話をするよ。つまり口頭伝承、楽譜、録音という音楽メディアの問題が全部詰まっている、希有な映画とゆえよう。物語的には……。

taninen さんのコメント...

僕が授業で紹介する時は、実際の伝承者によるBarbara Allenの録音も聴かせて、口頭伝承とヴァリアントの話をするよ。つまり口頭伝承、楽譜、録音という、音楽メディアの問題が全部詰まっている希有な映画とゆえよう。

中川克志(NAKAGAWA Katsushi) さんのコメント...

あ、そうか、口承伝統とヴァリアントの話もできるね。とすると、面白い映画だなあ。
これで、物語的にも面白い映画だったら…。