「聴診的聴取」ではなく「歌声聴取」に関する論文だったので、現象学的音楽美学みたいだったが、近年のサウンド・スタディーズの成果を参照した論考だった(たぶん、近年のサウンド・スタディーズの一部は結局のところ現象学的音楽美学みたいなのだ、ということだろう)。
著者は〈歌声聴取とは、聴取の空間把握のみならず、そこで把握された空間性を「聴取者自身の歌う身体に投影させるようにして聴く行為」(17)だ〉と主張し、その内実について考察を深めている。器楽聴取との比較、あるいは、歌声聴取とはそれだけではないだろうという事実ーー歌声聴取は歌詞を聴くことでもあるのだしーーに対する反論の仕方なども知りたいところだが、歌声聴取に関する美学的考察の一事例として覚えておくべし。