2022-04-25

自分への励みと促しとして、2021年度の仕事と2022年度の予定(願望)の備忘録

 2022年度には、2021年度に下書きを書いた『サウンド・アートの系譜学』を単著として出版し、次の段階に進みたい。次は『サウンド・アートの美学(仮)』とか?!

 昨年度はけっこうやるべきことをできたような気がしている。2022年度には、Keywords in Soundの翻訳を仕上げたい。サウンド・スタディーズの研究会の成果も今年度か次年度早々には出版に結実させるべし。いくつかの共同プロジェクトの計画も楽しみ。あと、台湾調査を再開できますように。

 以下、メモ。書誌情報に不備はあります。

2021年度に公刊された仕事

中川克志 2021a 「台湾におけるサウンド・アート研究 試論――ワン・フーレイ(王福瑞、 WANG Fujui)の場合――」 横浜国立大学都市イノベーション研究院(編)『常盤台人間文化論叢』7: 157-181。 →横浜国立大学リポジトリ本文

---. 2021b "History of Sound in the Arts in Japan Between the 1960s and 1990s" in: Charrieras, Damien, and François Mouillot. 2021. Fractured Scenes: Underground Music-Making in Hong Kong and East Asia. Springer Singapore: 225-239. ←2020年度に完成していた仕事

---. 2021c 「日本における〈音のある芸術の歴史〉を目指して――1950-90年代の雑誌『美術手帖』を中心に――」 細川周平(編)『音と耳から考える:歴史・身体・テクノロジー』東京:アルテスパブリッシング:484-497。 ←2020年度に完成していた仕事

---. 2021d 「創作楽器という問題」 廣川暁生、明石薫(編) 2021 『サウンド&アート展 見る音楽、聴く形』 「サウンド&アート」展図録(アーツ千代田3331、2021年11月5日-21日) 東京:クリエイティヴ・アート実行委員会2021:34-36。

中川克志 2021 「サウンド・インスタレーションとしてのプラネタリウム?」 『ユリイカ 特集レイ・ハラカミ』53.69(2021年6月号):234-240。

中川克志 2021 「2020年度第1回オンライン例会報告」 ポピュラー音楽学会『ニューズレターNo.128』33.2(2021年9月):3-4。 ←手違いで、2020年度の例会報告ですが2021年度のニューズレターに掲載されました。
中川克志 2022 「クリスチャン・マークレー 音、イメージ、文字、言葉」 『新潮』119.2(2022年2月号):188-189。本文刷り出しのスキャンPDF

話したこと

2021年7月10日​サウンド・スタディーズの研究会第一回(オンライン開催)で「アーカイヴ」について10分ほど話した。

2021年7月13日大阪大学で鈴木昭男さんの特別講演の二週目の最初に、10分ほどサウンド・アートというタームとその歴史について話した。

2021-10-22:京大杉山ゼミで一コマ話した

2021年11月20日:S&A展覧会ディスカッション ◇テーマ:「楽器をつくる、社会をつくる」
←毛利さんのインターネットラジオ『むんばれTuesday』の『毛利嘉孝のアート・リパブリック』で宣伝:伊地知裕子さん、中川克志さんと語る『サウンド&アート』展 | RadiCro(レディクロ)インターネットラジオ放送局 

2022年度に公刊される(だろう)仕事(あるいはすでに公刊された仕事)

中川克志 2022a 「サウンド・スカルプチュア試論――歴史的展開の素描と仮説の提言――」 横浜国立大学都市イノベーション研究院(編)『常盤台人間文化論叢』8: 73-99。→機関リポジトリへのリンク本文

---. 2022b 「クリスチャン・マークレー再論:世界との交歓」 東京都現代美術館(編) 2022 『クリスチャン・マークレー:トランスレーティング[翻訳する]』(東京都現代美術館、2021年11月20日-2022年2月23日) 展覧会図録 東京:左右社:182-190。

---. 2022c(刊行予定) 「日本におけるサウンド・アートの系譜学――京都国際現代音楽フォーラム(1989-1996)をめぐって――」 『京都国立近代美術館研究論集 CROSS SECTIONS』10。←2020年度に完成していた仕事。ようやく夏頃には出るそうです。


翻訳仕事:クリスチャン・マークレー展覧会図録に収録された三本
クリスチャン・マークレー&ダグラス・カーン「クリスチャン・マークレー初期 インタビュー」(2003年):196-202。
クリスチャン・マークレー&刀根康尚「レコード、CD、アナログ、デジタル」(1997年):203-209。

ダグラス・カーン「サラウンド・サウンド」(2003年):242-250。

2022年度の予定(願望)

単著を刊行する。『サウンド・アートの美学(仮)』を始める。Keywords in Soundの翻訳を仕上げる。サウンド・スタディーズの研究会の成果を本にする。いくつかの共同プロジェクトを楽しむ。台湾調査を再開する。

2022-04-23

メモ:現時点でのchrome os flex使用レポート

 試してみて、あまりに好都合で驚いたので、誰かの参考になるかもしれないと考え、現状をメモして公開しておく。



2022年4月半ばに、研究室のiMac (21.5 -inch, Mid 2010)にChrome OS Flexをインストールして研究室用デスクトップとして使い始めた。

10年前のこのiMacは、SSDドライブをいれたりして長く使ってきたが、セキュリティアップデートされなくなったので、使用を断念した。が、研究室で使うパソコンがなくなったので、次の新しいMBPかMBAを買うまでのつなぎを求めて、試しにこれにChrome OS Flexを入れてみた。研究室デスクトップとして2,3週間使ってみたが、研究室で仕事するには十分。ハードが壊れるまでこれで問題なさそう。

(ちなみに、授業用には古いMBAを使っている。こちらは使用教室の機材に対応する必要があるので、あまり冒険するつもりはない。)


○インストール

インストールについては色々なところで紹介されているので割愛。迷うところがないくらい簡単。ただし、やはり数年前にSSDに替えて長く使ってきたMacBook Pro (15-inch, late 2011)は(まだ?)インストールできなかった。

○基本アプリ

大学で授業準備や会議や書類仕事するために必要なものはブラウザ経由で使える。授業支援システム、学内限定の会計システム、Zoom、Outlook、Remember the Milk、Slack、Teams、Evernote、Dropbox、Apple Musicなどは、ブラウザアプリとして使える。WordもPagesもMicrosoft 365やiCloud経由でオンラインで使える。論文書きの全段階をするのはつらいけど、助成金申請書くらいの分量なら十分。

○外付けの色々

オーディオインターフェースもマウスもキーボードも何の設定もせずとも使えた。プリンタも設定なしで使えた。

10年前のレーザープリンターは使えなかったが、幸い(?)壊れたので、新しいエプソンのインクジェット複合機に買い替えたのだが、設定なしで使えた。最近のプリンタならだいたいドライヴァが用意されているのではないか? ただし、スキャンデータをそのままパソコン本体に転送する方法が分からなかった。それだけメモリスティック経由でやりとりすることになる。

実は5年以上使ってきた研究室用のScanSnapも壊れたのだが、自宅で使っている3年ほど前のScanSnapならChromeOSでも使えるらしい。ただしこちらも付属の便利ソフトとかは使えないかも。

でも、そういうソフトは、たいていほとんど使わない。

◯まだ良く分からないところ

内部のフォルダ構造がよく分からない。自分のファイルをローカルに保存しておくにはどこを使えば良いのか分からない(そもそもdvdドライヴをSSD525mbに換装してfusion drive化してあったのだが、fusionドライヴではなくなっている様子。つまり、525mbのSSDと1GBのHDDがあるはずなのだが、どこにあるのかよく分からない)。

つまり、Dropboxのフォルダの一部を同期したいのだが、どうしたらできるのだろう。→220425:File systems for Dropboxという拡張機能を入れてみた。

また、画像処理や映像処理の方法が分からない。多少なりとも凝った作業はできない。

◯現状の問題

:以下のような細かな不満点がある。こういうことがあるので、論文書きとかきちんと腰を据えて文章書くための母艦としては、使えない。

クリップボードソフト。OSの機能としてクリップボード履歴機能があるらしいが、まだその方法が分からない。 →220425:Chrome OSでは「検索+V」でクリップボード履歴を使えるとのことだったが、僕のChrome OS Flexでは「設定」画面に「検索」キー設定は出てこなかった。が、「Meta」キー設定があり、それが「検索」キーの機能を果たすらしい。僕はマック用キーボードで使っているので、⌘[command]キーのことだった(スクリーンショットとって記録したいのだが、そういや、まだ、スクリーンショットの取り方が分からない)。ただし機能が貧弱。定型文入力も欲しい。


IME。キーボードショートカットで日本語入力と英数入力を切り替える際に、キー1つだけではなく2つ組み合わせなければいけないのが、地味に毎回少し嫌。 

画像処理。Macのpreviewでチャチャっとやってきた切り抜きやらページ入れ替えやらコントラスト調整などを素早くやる方法が不明。

動画再生。先週、OSをアップデートしたら(あっという間に終わった)、GyaOの動画が白黒で再生されるようになった。ローカルに置いたmp4ファイルも白黒になった。vlc アプリがあれば解決かもしれないが。

Evernote。ブラウザ経由で使うと、個々のノートごとにウィンドウを開くのが手間。また、タグの表示が全く整理されておらず、タグを展開できないので、使い物にならない。

物書堂の辞書アプリがない!!! ←これが解決できれば翻訳仕事に使える。

アウトラインエディター。ない。

総じて、ブラウザ経由で作業するのでどうしても少しのもたつきを感じるし、ちょっとした細かなところが(まだ?)物足りない。iCloud上でPagesを使う際に、「見出し」スタイル変更するために「選択した部分に基づいて設定」ができない、とか、2in1で印刷する際にページ順を右から左か左から右かと設定できない、とか、時刻表示のところに日付表示も出したいのだが方法が分からない、とか。細かなことはMacの母艦でやるべし(あるいはGoogleドキュメントを使うべし?)。



とはいえ、普段からChromeブラウザを使っている環境そのままなので、オンライン会議には参加できるし、メール処理は問題ないし、会計システムにも入れるし印刷もできるし、サブスク動画も音声も問題ないし、論文の下書きとか助成金の申請書作業とか授業レジュメ作成とかも問題ない。 しかも、10年もののパソコンであるとは感じないくらいキビキビ動いている。

昔、ubuntuとかknoppy とかライブCDのLinux(インストール不要でcdから起動できて、古いスペックのパソコンで作動するやつ)を試した時も、なんと簡単に古いパソコンを再度使い物にしてくれるのか、と驚いたけど、あれらは、その後「で、現実問題としてどうやって自分の仕事に使うのか?」を考えて、そのハードルの高さから結局使わなかった。あれらとは全く違って、こちらは格段に簡単に、すぐに仕事に使える。

ネットを検索してもまだインストール指南の記事ばかりなので、早く、ChromeOS使いこなしTipsみたいものが増えますように。できたら「ChromeOSでする文系論文執筆の技法」みたいなブログが登場しますように。

2022-04-14

メモ:ネトフリで『ドント・ルック・アップ』

 

世界が終わる日までの映画とだけ聞いていたので、『渚にて』とか初期手塚治虫のようなSF的に終末的な物語かなと思って見始めたのだが、カフカ的不条理の喜劇的側面が良い感じにドライヴしていく映画で、新大阪まであっという間だった。今見直したら、映画紹介にちゃんと「コメディ」と書いてあった。
世界が滅ぶまでの日常における心のひだを細やかに淡々と描くとか、終末に向けて足掻き続ける人間の行動力を活写するとかではなく、惑星が地球に衝突するつという一つの事実が、人類全体(あるいは北米全体あるいは白人全体)が共有するためには、そんな事実なんかは吹き飛ぶほどの煩雑な人間臭いやりとりがあることを描く映画だった。そういう衝撃的な事実を社会全体で受け止めるには、どうやら、大統領が中間選挙を無事に勝ち抜けるほどの権力を維持していなければいけないし、ちょっとした有名人同士のくっついたとか離れたとかのゴシップと同列の扱いをマスメディアで受けることから始めるしかない、というわけだ。地球にぶつかる彗星発見者の1人が、途中でどうでも良くなるという話の流れが、なんかとても良かった。
最近ようやく離れたばかりの関西に一泊二日で強行帰省の行きの新幹線で視聴。ディカプリオにハズレなし。

メモ:死ねない老人

しょうたおいちゃんが亡くなった翌日に、大学に行くバスのなかで読了。 定年退職後の人生の生きがいのことと、死に方について考えるなど。

2022-04-10

メモ:ヴィック・ムニーズ『ごみアートの奇跡[Waste Land]』(2010)

ヴィック・ムニーズ/ごみアートの奇跡 - Wikipedia 

ヴィック・ムニーズはブラジル出身の作家で、「1990年代初頭より、針金や砂糖、ダイヤモンド、チョコレート、色紙など様々な素材を用いて、歴史的な報道写真や美術史上の名作を再現した写真作品を発表してきた」作家。砂糖かシロップで描いたモナリザ像などがあるみたいで、実物を見てみたい。

彼が故郷のブラジルでゴミ拾いする人々とともに――正確には、彼らを利用して――、ゴミからアート作品(=ゴミを使って過去の名画を模倣したもの)を作成し(作成時には彼らに手伝ってもらって)、作成した作品を写真撮影したものをオークションで競売にかけ、オークション会場に彼らの代表を連れていき、5万ポンドで競り落とされる場面を見せる、というドキュメンタリー。第83回アカデミー長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。

ドキュメンタリーとしては、そのアート作品がいかなるものかといった問題に踏み込むものではない。ゴミとは何かとか、ゴミ捨て場で働くこととは何かとか、ゴミからアートを作ることとはどういうことか、とか、ゴミがアートワールドで5万ポンドになることの不思議さとか、そういうことについて見解が披露されるわけではない。なので、なんとなく「結局のところ、アートワールドとそれを成立させている資本主義に回収されてしまうドキュメンタリーに過ぎない」と切り捨ててしまいたくもなる。

また、ドキュメンタリーとして、そこで働いている個々の人生を鋭く見ている、といったドキュメンタリーではない。離婚して娘と会えなくなった母親とか不倫相手と別れたばかりの中年女性とか組合を作って頑張っている人とか5歳の頃からずっとこのゴミ拾いの仕事をして自分もシングルマザーになってゴミ拾いの仕事を頑張っている若い女性とか色々出てくる。でも、途中、ゴミ拾いの人たちの給料が銀行から引き出されてすぐ強盗に強奪された、というエピソードが出てくるのだけど、その後どうなったかの説明がゼロだったりする。

つまり、あくまでも、これはヴィック・ムニーズという人の活動記録としてのドキュメンタリー。なのだけど、実はそこまで悪印象は抱かなかったのは、このヴィック・ムニーズという人がなんだか色々と正直に語っているように僕には見えたから、かもしれない。

最初の方で、ゴミ拾いの人たちとお近づきになるときにムニーズさんは「自分は成功したから還元したいんだ」と言っていたのだが、見ていて、なんだか無意識的に高慢に偉そうだなあ、でもよくまあこんなこと正直に言えるもんだなあ、などと思ったし、最後の方で、貧乏とか金持ちとかじゃなくて一生懸命頑張っているから良いんだ(大意)とか「人助けのつもりだったが高慢に思えてきた」とか話していて、なんだか雑駁だけど正直な人なのかなあ、などと思ったからかもしれない。

アートとは思いもかけない出来事を生じさせる活動なのだとすれば、ヴィック・ムニーズの活動もまさにアートなんだろうな、と思った。べた褒めするのは何か抵抗があるけど、〈しょせん資本主義とアート・ワールドの理屈に回収されるだけだ〉と腐すこともあるまい、といった感じ。

この人の感想がぴったりだな、と思った。→「ゴミ問題をどうするかという視点の映画ではなく、シンデレラのお話です。」 ヴィック・ムニーズ ごみアートの奇跡 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画 https://filmarks.com/movies/54548

2022-04-08

『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』に寄稿しました。



早くに送っていただいていたのにうまく受け取れず、一般発売日の今日、受け取りました。2月に終了した東京都現代美術館のクリスチャン・マークレー展の展覧会図録。論考「クリスチャン・マークレー再論 世界との交歓」を寄稿し、いくつか翻訳しました。

10年前に僕は「クリスチャン・マークレイ試論」(その頃は「マークレイ」表記が多かった)を書いたので、今回は「再論」です。自分はなぜクリスチャン・マークレーという作家の作品を好むのかということを考えていました。

翻訳は三本。ダグラス・カーン「サラウンド・サウンド」と、ダグラス・カーンによるクリスチャン・マークレーへのインタビューと、クリスチャン・マークレーと刀根康尚との対談。この三本、音響再生産技術を使うアートに関心のある研究者やアーティストにとっての基礎文献みたいなものなので、みなさん、是非ともご参照ください。なかでもダグラス・カーンのテキストはもう20年近く前のものだけど、細部で複層的な意味連関が絡み合っていて味わい深く、論の骨格や発想がなんともオリジナルで素晴らしいです。うまく訳出できていない部分も多いですが…。彼の『Noise, Water, Meat: A Hisotory of Sound in the Arts』も訳せるといいな。

展覧会図録の資料として、日本での展覧会とパフォーマンスの記録がまとめられています。これが面白い。かなり頻繁に日本に来てますね。この前Bunkamuraで見たミロ展のテーマが作家と日本との関わりだったので、なんとなく、ミロとクリスチャン・マークレーを並べて考えてみたり、やはり関係ないと思ったり。

クリスチャン・マークレーはけっこうな頻度で本あるいは展覧会図録を刊行していていちおう全部把握していると思うけど、なかでも、この展覧会図録は出色のデキだと思います。収録作品と展覧会コンセプトがうまく噛み合っているし、持ちやすいし、中川克志が寄稿しているし。

この図録作成だけでもけっこう紆余曲折を経て完成したもので、関係者各位のお仕事には頭が下がるばかり。展覧会全体の仕事量となると、もう凄まじいんでしょうね…。

>藪前さん お声がけしてくれて、ありがとございました。クリスチャン・マークレーというアーティストの仕事に多少なりとも関わることができて、嬉しかったです。感無量です。