2025-09-04

メモ:Holmes, Thom. 2022. Sound Art: Concepts and Practices

Holmes, Thom. 2022. Sound Art: Concepts and Practices. London, England: Routledge. https://doi.org/10.5040/9781138649491.


著者
は電子音楽史の教科書として定評のある『Electronic and Experimental Music』を書いた人。何度も増補改訂版が出されていて、今はsixth edition。毎回ちゃんと内容も修正更新しているし、頻繁にポッドキャスト?ミックス?をアップロードしていて、その勤勉さに驚く。

そのThom Holmesがsound artの教科書を作成していた。まったく評判を聞かなかったし、アンテナに引っかかってこなかったので、2022年にこういうものが出ていたことに驚いた。でも、それも仕方ない、という感じのものだった。

(そういえば、2010年代後半に、この本が出るらしいと知って注文してしかしなかなか出なくてキャンセルされて…、みたいなこともあったような気がする。)

この本は“Sound Art offers the first comprehensive introduction to sound art written for undergraduate students.” という志らしい。学部生で、かつ、おそらくは、美大でsound artを制作してみたいという学生を念頭に置いているのだと思う。

ただし、褒められそうなのはそれだけ。

Geminiに評判を調べてもらったら

「『サウンド・アート:概念と実践』は、その序文で主張されている「包括的な入門書」としての役割を、客観的な証拠に基づいて果たしていません。その評判は、否定的なものというよりは、むしろ存在しないと表現するのが最も正確です。この本は、この分野の確立された文献に加わることに失敗し、サウンド・アートの学術的言説に、意味のある形で貢献することも議論を喚起することもないままです。」

Google Gemini https://gemini.google.com/app/10f8f156a62d06f7

と言われた。

確かに!

可もなく不可もなく、どころではなく、結構穴がある。年表がけっこうとんでいるし、読み応えのある考察もないし。

なんというか、美大とか芸大で、「サウンド・アート」という授業をしたい先生が、自分で自主的に作成した講義資料、という趣がある。

音へのアプローチの仕方という点で10個ほどに章をわけたようだが、教科書がつまらないと、学生も刺激を受けないので、教科書としての出来は悪い、と考えるべきだろう。

ううん…。

2025-08-22

新聞コラム:「深深」

本日(2025年8月22日)の読売新聞夕刊の「もったいない語辞典」というコーナーに寄稿しました。お題は「深深」です。最近は新聞の夕刊は駅売店などでしか買えないかもしれないらしいですが、どこかで見かけたら皆様どうぞご笑覧ください。

モンベルの創業者に関する記事の横で、なんか嬉しかったです。iPhoneの小さい画面で編集したのでこんな感じになりました。モザイクのかけ方が分からず…。

→新聞・雑誌への掲載(2025年 8月) - 大学案内 - 横浜国立大学 https://www.ynu.ac.jp/about/public/media/newspaper/list.php?y=2025&m=8
→中川克志先生/読売新聞『もったいない語辞典』に「深深」という言葉の意味や表現に関するコラム掲載 - Y-GSC https://ygsc-studio.ynu.ac.jp/2025/08/post-74.html

2025-07-14

3月に参加したAudible Futuresのproceedingsが公開されました。

3月の年度末に参加して大変刺激的だったsound studiesの学会のproceedingsが公開されました。17名分ということは3分の2程度の参加者の人が寄稿しています。
学会発表のproceedingsって、今まで、発表用に作成した原稿を読みやすく整形して提出するものしか経験してこなかったけど、今回はフォーマットが決まっていて、「Background, Aims, Methods, Implications」という4つのセクションに構造化してkeywordsとreferencesも付ける、という形式でした。こういうやり方もあるんだあ、と思いました。
International Conference on Politics of Sound and Technology 2025 – 한양대학교 음악연구소 https://mrc.hanyang.ac.kr/audible-futures/

書誌情報はこちら。(なんか変な書き方な気もしますが)
NAKAGAWA Katsushi. 2025. "What Happened to Environmental Music in 1980s Japan When It Was Reevaluated as Kankyō Ongaku in the 2010s?" In: Chung, Kyung-Young (Music Research Center, Hanyang University), ed. 2025. Proceedings of Audible Futures: Media, Ecology, and Art. Seoul, South Korea: SORIZIUM. https://mrc.hanyang.ac.kr/wp-content/uploads/audible-futures-proceedings.pdf.: pp.97-101.


僕は国際学会で発表する際には、ずっと、1980年代日本の環境音楽と2010年代のKankyō Ongakuのことを考え続けてきたのですが、問題をけっこう整理できてきたし、今年から来年にかけて何度かこの主題について論文と発表とでまとめる機会があるし、そろそろ取りまとめます(と宣言してみます)。
来年度にコペンハーゲンで発表したら、きっちりと査読誌に投稿できる準備が整うのではないだろうか。

2025-07-04

メモ:中島みゆきはVocaloidより凄いかもしれない

2025年4月19日放送の「新プロジェクトX~挑戦者たち~ 情熱の連鎖が生んだ音楽革命 ~初音ミク 誕生秘話~ 」を、NHKオンデマンドでやっと見た。初音ミク現象について、多方面に触れていて良いドキュメンタリーだったし、最終的には中島みゆきの偉大さに想いが至るドキュメンタリーだった。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2025145869SA000/? 


最近、大学院生とNina Sun Eidsheim, The Race of Sound, 2019 (Open Access: https://library.oapen.org/handle/20.500.12657/22281) を読んでいて、ch4ではヴォーカロイド文化が取り上げられていた。そこでは、Vocaloid技術を用いたLEONとLORAという奴らが先にデビューしていたが、それらはキャラクター化されておらず、ソウル・ミュージックのバックシンガーとして使われるシンセサイザー音源の一種として、販売された。が、ソウル・ミュージックで使われた事例は全くなく、ただし、ファンたちが自由に勝手にキャラクターをつけて盛り上がったりしていた、ということが語られていた。で、その後、初音ミクが爆発的に普及したのだ、というお話だった。

このドキュメンタリーでは、初音ミクの前にMEIKOがいたことには触れられていたけど、LEONとLOLAのことには全く触れられていなかった。
 Eidsheim 2019では「初音ミクはLEONとLOLAに影響された」とは明言されていなかったので、直接的あるいは事実として、初音ミクとLEONとLORAは、あまり関係ないのかもしれない。どうなのか。

NinaさんはLEONとLORAの役割を過大評価しようとしているとか、プロジェクトXは初音ミクの役割を過大評価しようとしている(ので先駆者の存在を無視している)とか、そういうことはどうでも良いのだが、事実としてはどうだったんだろう。


突然COMPOSTELLAが流れて、びっくりした。一聴して分かる。初音ミクの成功に向けて活躍した一人が、音楽好きであることを示すために再生された事例として、再生された。

初音ミクに関するプロジェクトXの番組でも、やはり、中島みゆきの地上の星が流れるのであって、初音ミクに歌わせたりはしないんだな、と思った。ヴォーカロイドの曲を人間が歌うようになった例としてAdoを紹介する際に、Adoの歌声と中島みゆきの「ヘッドラーイトー」という歌声が交差したり、中島みゆきだけになったり、という場面で終わった。 その最後のところがすごかった…! 
(プロジェクトXって初めて見たかもしれん。なんか、すごいフォーマットやな…。)

2025-06-27

[お知らせ] 6月28日(土)にニック・ラスコム(Nick Luscombe)さんのフィールド・レコー ディングのワークショップを開催します!

概要

サウンド・アーティスト、フィールド・レコーディスト、BBCラジオのDJ・プロデューサーであるニック・ラスコム(Nick Luscombe)さんによるフィールド・レコーディングのワークショップを横浜国立大学で開催します。本ワークショップでは、キャンパス内での環境音(「宮脇フォレスト」を予定)の録音と、それらを用いた短いサウンドスケープの制作を行います。
横浜国立大学の学生はもちろん、学外からの参加も歓迎します。経験の有無は問いません。初心者から経験者まで、お気軽にご参加ください。
実施言語:英語と日本語(通訳あり)

基本情報

日時:2025年6月28日(土)13:00~17:00
場所:YNU(横浜国立大学)キャンパス:詳細な場所は後日改めて連絡します。
無料です。

参加者の準備物

音声録音機器(普通のスマートフォンあるいはICレコーダーなど)
(可能なら、音声編集ソフトウェアのインストールされたノートパソコンを持ってきてください。自分の録音素材で使って短いサウンドスケープを作成しましょう。)

参加申し込み

申し込み方法:Google Form
申し込み期限:6月26日(木)まで。参加者多数の場合、期日前に受付を終了します。

主催・問い合わせ先

新音響文化研究会(横浜国立大学大学院・都市イノベーション研究院・中川克志研究室):katsushinakagawa (at) ynu.ac.jp

→中川克志先生/ニック・ラスコムさんのフィールド・レコー ディングのワークショップを開催します! - Y-GSC https://ygsc-studio.ynu.ac.jp/2025/05/nick-luscombe.html
→ニック・ラスコムさんのフィールド・レコー ディングのワークショップを開催します! - イベント一覧 - 横浜国立大学 https://www.ynu.ac.jp/hus/cus/33495/detail.html

→ニック・ラスコムさんのフィールド・レコー ディングのワークショップを開催しました!|横浜国立大学 地域連携推進機構 https://www.chiiki.ynu.ac.jp/news/000574.html

ジョナサン・スターン+メハク・ソーニー「アクースマティックな問いとデータ化の意志——Otter.ai・低リソースな言語・機械聴取のポリティクス」 中川克志(訳)  『メディウム』5号(2024年12月):163-196。

ジョナサン・スターン特集号の『メディウム』5号(2024年12月)に掲載した、ジョナサン・スターンの論文の翻訳を公開しておきます。訳者解題も公開しておきます。みなさま、どうぞお読みください。面白い論文ですよ。スターンの佳品、という趣があります。PDFを提供していただいたメディウム編集部に感謝します。


ジョナサン・スターン+メハク・ソーニー「アクースマティックな問いとデータ化の意志——Otter.ai・低リソースな言語・機械聴取のポリティクス」 中川克志(訳)  『メディウム』5号(2024年12月):163-196。

https://drive.google.com/file/d/1QbBSLXeHvTEcPeStJw8-RRPhE_mwK_Kj/view?usp=sharing


原著論文は「CC BY-NC-SA」で公開されているので(コモンズ証 - 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際 - Creative Commons https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/deed.ja)、翻訳文もそのまま公開します。

原著論文はこちら→ (coauthored with Mehak Sawhney) “The Acousmatic Question and the Will to Datafy: Otter.ai, Low-Resource Languages, and the Politics of Machine Listening.” Kalfou: A Journal of Comparative and Relational Ethnic Studies 8:1-2 (Fall 2022): 288-306.

あるいはこちら→ “The Acousmatic Question and the Will to Datafy: Otter.ai, Low-Resource Languages, and the Politics of Machine Listening.” – Sterneworks https://sterneworks.org/text/sterne-sawhney-acousmaticquestion/

2025-06-22

メモ:川上未映子『夏物語』


去年の10月(241023)に購入して、それ以来、夜に時間のある際に一章ずつ読んできた。2025年6月22日22:25に読了。ゆっくり読んだ。  

主題や構成もそうだが、各章の構成や塩梅や配分も含めて、傑作。関西弁も素晴らしい。

2025-06-21

メモ:高妍『緑の歌』

 高妍『緑の歌』を読んだ。日本文化(細野晴臣や村上春樹)に憧れることで自分の世界を広げていった台湾の若者のお話。「風をあつめて」をしっかりと聴き直しながら読むなど。

「日本文化に親近感を持つ台湾の若者の話」なので「台湾のお勉強」の一環と思って読み始めたのだけど、何より、「若者の話」として繊細でよくできていて、アラフィフのおじさんとしては、もはや自分には関係ない(=こういう心の動き方をすることはない)けど過去の自分には似ていたかもしれない、とか思って、良かったです。若者としての僕の同時代の作家ではないけれど、読んで良かった。もはや、これにとてつもなく動かされるという感じではないけど、良いマンガでした。でも『隙間』も読もう。

と思ったら、ちょうど、高橋源一郎「飛ぶ教室」のゲストだったそうです。今(2025年6月23日10:04)から聴き逃し配信を聞いてみよう。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

Xユーザーの高橋源一郎さん: 「明日の「飛ぶ教室」、1コマ目は温又柔(おん・ゆうじゅう)さんの『台湾生まれ 日本語育ち』を読みます。3歳で日本に来た台湾人作家が台湾語・中国語・日本語3つの「母語」の間で揺れ動く物語。2コマ目のセンセイは台湾出身の漫画家・高 妍(ガオ・イェン)さん。傑作『隙間』が完結したばかり。」 / X [https://x.com/takagengen/status/1935641636115263784](https://x.com/takagengen/status/1935641636115263784)

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

追記:

あとがきが良かったな。一生創作し続けることを決意した若き創作者の言葉として。