2021-05-13

野村誠『異能者たちの住むところ――野村誠の香港日記』(わしわしBOOKS、2021)

1000人の入所者が暮らし、1000人の通所者が通い、1000人の職員が働いているJCRC (Jocky Club Rehabilitation Complex)は香港最大のNGOで、知的障害者の複合施設。この施設のアート専門のセクションi-dArt(愛不同藝術)に招聘されて3ヶ月間レジデンスした野村誠さんによる活動記録。私家版? 「障害者」(中国語では「残疾人」)とは「異能者」であり、野村誠は、點心のようにたくさん行った様々な活動――月曜から金曜まで17個?のセッション、最後にトラムで街なかで演奏――を通じて異能者とのコミュニケーションを深め、音楽をした。レジデンスとはこんなに忙しく深く活動するものなのかと驚く。驚きはそれだけではない。異能者と楽しくコミュニケーションを取る才能/能力/性格、スタッフらとのコミュニケーションもなおざりにしない態度(「伝える努力を怠ってはならない」「価値観のすり合わせをするための努力も惜しまなかった」(26))、17個のプロジェクトすべての前提となるこれまでの野村誠の経験の分厚さ、等々。この活動は何なのだろう。異能者の集まる施設で繰り広げられた多幸感あふれるこの活動は。ちょっとした工夫をすれば僕もこんな風に楽しく人と関わることができるんじゃないだろうかと思えてくる。本当は、こんなに人と交わるのは本当に凄いことなのだけど、そんな風に勘違いしてしまいたくなる。素敵な記録だ。

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