◯2014-12-24に追加された映像
Strings - Makoto Oshiro from ooooshiroooo on Vimeo.
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2014年10月11日(土)から10月26日(日)まで
19日(日)に三ノ輪のspace dikeで開催中の大城真個展「strings」を見た。
その後のトークも含めて今の自分の関心事ともリンクしていたし、とても面白かった。
作品はひとつだけだったけど、世界の成り立ちに関わる自然現象を取り出し、飽きのこないやり方で見せる作品として、素晴らしい作品だった。
単純な規則に基づき事象は複雑に、しかし規則的に動く。このインスタレーション作品では、スピーカーとストロボと紐が音と光を(あるいは、音と光がスピーカーとストロボと紐を)明滅させていた。
世界は常に震えているのだ。
なんとステキなことだろう。
今週末でおしまいというのはもったいない。まだの方は是非。
以下、もっと整理した文章を目指したいところだが、きっとまた完成させずに放ったらかしてしまうだろうから、とりあえず書いた分だけメモ代わりに。
(10月22日に大城真さんにいくつかコメントをもらったので、文言を少し修正しました。)
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1.作品記述
50hzの低周波の電磁波のドローンがスピーカーから発せられていて、スピーカーから部屋の隅(建物のハリ)に何本もの紐が結びつけられている。50hzの振動を受けて、紐は50hzのサイン波の軌跡(一秒間に50回の振幅)で震えている。
部屋の隅では三台のストロボが24hzの周期で明滅し、数分に一回、一瞬、点灯される。
明滅中、紐は低速度で揺らめいているように見えている。
また、点灯されると、紐が実は高速に動いているのも見える。
つまり、パッと見た感じ、スピーカーから生えた紐がイソギンチャクのように揺らめいている。
ギャラリーの部屋(せいぜい8畳程度?)の3分の2ほどの大きさのこのインスタレーション作品を見る経験は、このインスタレーション「の中に入る」経験である。そんな距離でインスタレーション「の中に入る」と、この紐を触らざるをえないわけだが、紐を触ると、触った部分を端点とする振動が生じ、紐の高速運度の軌跡に変化が生じ、紐と指との間などで音が発生したりもする。
つまり、インスタレーション作品全体が震えているように感じられる。
まとめると、このインスタレーションでは音波と光波(と物理的振動)の衝突が見事に可視化されている。
紐のゆらぎの中にいる経験はいつまでも飽きのこない経験だった。
気持ち良かった。
(後のトークによると、このストロボの明滅が24hzというのはポイントらしい。もし49hzだと紐の振幅の両端が常に見えるらしく、すると、常に2本の紐があるように見えるらしい。また、9hzくらいだとポケモン現象を起こし、倒れる人が出てくるかもしれないらしい。24hzだと、うまい具合に滑らかに低速で紐が動いているように見えるし、また、24hzの明滅というのはカメラのストロボと同じ明滅なので、実はこの明滅のリズムに人離れているらしい。)
(この点灯の周期は実はArduinoでプログラムして紐の見え方を制御しているらしい。詳細はメモしそこねた。)
(以上のメカニズムの説明の正確さには、あまり自信がない。)
参考:"ローリングシャッター効果":iPhoneをギターの中に入れ、演奏する弦を撮影するとこう見える(動画) - 涙目で仕事しないSE
2.振動とメディア
この作品は真正なるメディア・アートなのだと思う。このインスタレーションはあるメディアの存在を浮き彫りにする。「振動」である。この作品は「振動というメディア(=媒体)」を主題化するメディア・アートなのだと思う。また、このインスタレーションは、電磁波、光波、音波、振動波というかたちで存在する「振動=波」の衝突を物質化・可視化することで、「振動とは世界に遍在する現象である」ということを主題化しているのだと思う。スピーカーの発する「50hzの電磁波」は人工的に生み出されたものだ。しかし、50hzの電磁波によって生み出された振動が、音波や光波や振動波として干渉しあう現象は自然現象だ。この作品は、世界の成り立ちに関わる自然現象を取り出し、視覚化した作品なのだと思う。
あらゆる事物はさまざまなレベルで振動している。生命は振動している。音を発する事物も振動している。極めて静的でまったく動いていないように思われる岩石のような事物でさえ、例えば、光を反射するというやり方で、振動と関わりをもって存在している。
つまり、世界は常に振動している。
このインスタレーションは、世界の基底に存在する、全てを生々流転させる活力の源泉のようなものを露わにする。
この作品を経験するひとは、元気づけられないわけにはいかないのではないだろうか。
(後のトークで畠中さんは、自分は「サウンド・アート=モノ派」論というのを考えていてその延長線上にこの作品を位置づけてみると面白いかも云々と思った、と言っていた。メディア=作品の媒体を主題とする作品として位置づけて見ると面白いかも、という発言だと思うが、この観点はやたら拡大すると、グリーンバーグ的な意味でモダンな絵画もメディア・アートになるわけだな。)
(ところで実は、「そのままでは見ることも聴くこともできない不可知の、しかし世界のどこにでも遍在する振動を現実化した作品」であるという点で、この作品はケージ以降の実験音楽の正当な継承者である、というお話を作ることもできる。作る必要はないけど。)
3.歴史:メモ
「芸術における電磁波の歴史」という観点からこの作品を考えた時、この作品は僕の今の関心事とリンクする。電磁気とは「自然」の一部なのだから、電信や電話など、電磁気を検知できるコミュニケーション技術が登場することで、「自然」概念は(電磁気を含むものとして)変化する。電磁気が「自然」に組み込まれていく過程はおおよそ次のように整理できる。まず、電信や電話の登場とともに電磁気が人間の日常生活の中に侵入する(同時期にマックスウェルがラジオと光がともに電磁気であることを証明し、また、地震学や天文学などの科学的探求においても電磁気が大いに利用され始める)。次に1900年前後に放射線が発見され、1920年代にはラジオが一般化する。1945年に原爆が投下されることで、放射線が電磁気のスペクトラムの全てを「自然」のなかに導入することになる。電磁気は近現代に「自然」概念を大きく拡張したと言える。
参考:Kahn, Douglas. 2013. Earth Sound Earth Signal Energies and Earth Magnitude in the A
だとすると、この作品は、どういう位置づけが可能だろう。この作品を見て思い浮かんだ名前は、アルヴィン・ルシエ、ゴードン・モナハン、カールステン・ニコライなどである。
(以下略、というか、ちゃんと考えていない。)
4.
来年の夏に、Douglas KahnがいるUNSWで、エネルギーとアートみたいなお題目でカンファレンスが開催されるらしい。作品を詳細に分析する20分ほどの発表を募集する、みたいなことを書いているから、この作品を歴史的な文脈に位置づけられることができれば発表ネタとして面白かろうと思った。のだが、そこで、僕はふたつのことに気づいた。まず、僕はこの作品の原理的な事項をきちんと理解できていない。そしてもうひとつ。この作品は、どうやってドキュメントを残すのだろう? 動画撮影できるのか?
Call for Papers: Energies and the Arts Conference 13-15 August 2015 | National Institute for Experimental Arts
5.
なんで三ノ輪の、しかも駅から離れたギャラリーでやるのだろう、と思ったが、いくつかの意味でここが良い場所だから、なのだろう。ビルの屋上に登らせてもらった。周囲にこのビルより高いビルもあるけど、その景色も含めて、昼間にぼーっとしてたら楽しかろうなあ。
以下は、整理していないただのメモ:畠中さんとのトークより
◯紐の材質について紐の材質が、倍音が少し乗るような材質を選んだことが大事だったらしい。材質によっては、本当にキレイなサイン波の形の揺れを再現できるが、それは避けた、とのこと。
で、畠中さんが、ルシエのMusic on a Long Thin Wireもキレイなだけのサイン波を鳴らすわけじゃないし、生楽器の弦の振動もキレイじゃなくてガタガタだ、ということに言及。すると、大城さんは、そういうことは展覧会のタイトルでも少し匂わせている、とのこと。
で、畠中さんが、なるほど、ということはこの作品は「”音の視覚化”というものはそんなスッキリしたもんじゃない」ということを示しているので色々考えさせるし、色々考えさせるってことは良い作品だってことだ、と発言。
→修正:「材質というよりは紐の張り方ですね。材質も多少影響はありますが、テンションのかけ方でずいぶん変わってきます」とのことらしい!
◯きっかけ
昔、ウーハーに50hzのサイン波(一秒間に50回ウーハーを振動させる)を流すと、そこに取り付けた紐がサイン波の形で動くことを発見し、遊んでいた。そこに、50hzより少し遅いテンポでストロボを明滅させると見え方が変わることも知った。で、この作品の原型は、
とのこと。
→
修正:「元をたどると2008年のlooplineでの展示が原型にあって、そのあと2010年に梅香堂で夏の大△の展示で今回の作品にも通じるものを展示した、という感じ」とのこと!
looplineでやった"kinema 58, 59"の記録。
http://vimeo.com/58562056
梅香堂での"夏の大△"
◯ストロボによる視覚の遅延について
畠中
遅延する知覚、だと思った。だから、手塚治虫のマンガを思い出した(「処刑は3時におわった」だと思われる)。
大城
止まって見えるような瞬間も設定してある
◯没入感について
大城
梅花堂では紐は一本だった。
今回は紐が多いことで、ある種の没入感を生じさせることができる。
畠中さん
没入感というのは納得がいく。
梅花堂の時は20Hzなので音が聞こえないけど、今回は50Hzなので音が聞こえる、ってことに納得がいった。
何本も建物のハリに繋がっている、ってのはミソだろうなあ、と。角田俊也さん的な。
など
4 件のコメント:
ちょっと事実関係の訂正:
>10年ほど前の大阪の梅花堂の展示にあるらしい
元をたどると2008年のlooplineでの展示が原型にあって、そのあと2010年に梅香堂で夏の大△の展示で今回の作品にも通じるものを展示した、という感じです。
looplineでやった"kinema 58, 59"の記録。
http://vimeo.com/58562056
梅香堂での"夏の大△"
https://www.youtube.com/watch?v=AeuDPYBCSKE
そしてさらに追加補足で、
>倍音が少し乗るような材質
材質というよりは紐の張り方ですね。材質も多少影響はありますが、テンションのかけ方でずいぶん変わってきます。
遅くなったけど、コメントありがとうさんです。
今頃パフォーマンスやっとるわけですな。
面白そうだなあ、見たかったなあ、と思ってます。
和歌山より
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