2021-11-10

メモ:伊藤精英『音が描く日常風景』(金子書房、2021年)

視覚的自己を失明で喪失した後、聴覚的自己あるいは振動的自己を構築した著者が、長年の生態音響・振動学的アプローチを通じて、視覚ではなく聴覚だけで人は世界をどのように知覚認識構築しているかを記述したもの。面白くてさらっと読んでしまった。

ギブソンの生態心理学は視覚中心で、音声や聴覚にはあまり触れていない。そこを埋める研究という意義もある。とはいえ、この本は、生態心理学という領域だけでなく、サウンド・スタディーズ全般のなかで理解されるべき著作であることも確かだ。

おそらく、生態心理学あるいは生態学的知覚論的なやり方が、人文学においてもっと普及する必要があるのだと思う。世界や環境や人間の知覚や行動を記述するとき、世界と知覚主体とを区別せずに記述するやり方を。まあ、実はけっこう普及していて、僕が慣れていない、ということでもあるが。

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