いま、ジョナサン・スターンのある論文を翻訳するために、ニーナ・サン・アイズハイムという人の『声の人種[The Race of Sound]』という本を確認している。この本は、声を通じて人種を想定する行為がいかに文化的な営為であるかを、きちんとした理論的整備といくつかの事例分析を通じて検証しようとするものらしく、序文で提唱される〈声は単一的なものではなく集合的なものである、声は内的な発露ではなく文化的に規定される、声の源は発話者にではなく聴き手にある〉といった命題も魅力的で(どうやってこういうことを説得的に論じるのだろう?という知的好奇心を掻き立てる)、面白そうである。ヴォイス・スタディーズな人に噛み砕いて訳してもらいたいところ。
ともあれ、この本では、カルマン症候群にかかったので声変わりしなかったJimmy Scottという歌手のことが分析される。この歌手はスターンの論文でも人名が言及されていたのでapple musicで検索して聴いてみて、なるほどこんな感じね、と思っていた。で、今日またちょっとググってみたところ、この人はツイン・ピークス最終話のクーパーの夢世界みたいなところで歌っていたことを知った。
Jimmy Scott-Sycamore Trees (Twin Peaks) - YouTube
クーパーが若い!
数十年前に初めてこの歌う場面を見た時の記憶はもうないけど、確かに、この声が男声か女声かは、すぐには決定できないかもしれない(リンチなのだから、歌う演技をする男性の俳優に女性歌手の声を重ねる、という演出も十分あり得そうだし)。声の源の性別や人種を決定するのは発話者ではなく聴き手なのかもしれない。
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アイズハイムの本はこちら。オープンアクセスがある。
Eidsheim, Nina Sun. 2018. The Race of Sound: Listening, Timbre, and Vocality in African American Music. Duke University Press. https://doi.org/10.1215/9780822372646.
(オープンアクセス版はこちら:https://library.oapen.org/handle/20.500.12657/22281 こちらの出版年は2019年になるらしい。)
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