2025-03-30

メモ:Audible Futures雑感

International Conference on Politics of Sound and Technology 2025 – 한양대학교 음악연구소 https://mrc.hanyang.ac.kr/audible-futures/

Hanyang UniversityのMusic Research Centerが主催して開催している会議に初参加した。
“Rethinking Sound” (2018), “Differentiating Sound Studies: Politics of Sound and Listening” (2022)に引き続き、今回は "Audible Futures: Media, Ecology, and Art"という名前で開催。3月末あるいは4月半ばという日本の大学人にとってはなんとも参加しにくい時期の国際会議なので、なかなか難しかったが、今回初めて参加できた。
二日間で、同時開催は二部屋あるいは一部屋という規模の小さめの会議だが、それでも40名くらいは参加していたとのこと。発表しなかった参加者も含めるともっといたようだ。様々な国から様々な年代の様々なディシプリンの研究者あるいはアーティストが参加していた
僕が聞いたのは、ストリーミング・プラットフォーム分析、磁気テープのエコロジーとマテリアリティに関する研究、V Tuberの声のポリティクス、映画における音響分析、ゲーム音楽研究、北朝鮮に向けられたスピーカー放送の政治的含意、ネトフリやアマプラのストリーミング・プラットフォームにおける連続ドラマ再生インターフェースの問題(今回の発表のベストだったのではないか:https://mrc.hanyang.ac.kr/audible-futures/abstracts/#julin)、リビアの検問所における音響の問題、Samson Young研究、エグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)の作品へのブラジルのサウンドスケープとの関連の分析(発表者名は「ラファエロ」ではなく「ハファエロ」と読むらしい)、SoundWolf Co., Ltd.の創業者自身のお話、韓国の最初期のサウンド・アーティスト自身の話、AudioSpacesというプロジェクトの紹介分析、カナダにおけるFreedom convoyの話 (フリーダム・コンボイ - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%82%A4)、メシアンの楽曲における時間論、などなど。聞けなかったセッションではフィールドワーク系の話も多かったようだ。
とにかく話題が多様で、聴衆が前提を共有していない話題も多いのだが、だからこそ/にもかかわらず、質疑応答はフレンドリーに進行し、思いがけない指摘も多く、面白かった。細川周平さんが日文研でやっていた音耳研究班のように、刺激的だった。とにかく反応がポジティブで、コミュニケーションが開かれていて、質問もしやすかったし。coffee break時に他の人とも雑談しやすかった。美術史家、歴史家、文学研究者がいなかったなあ。
発表者の出身地はヨーロッパ、北米、ハワイ、東アジア諸国など。東南アジアの人はいなかったかも。主催者は国際会議に出席して、この会議への参加を呼びかけるなど地道な宣伝活動もしたらしい。IASPMのMLでも流れたはずだ。でも、よくまあ、色々な国から参加者を集められるものだなあ。研究者だけじゃなくアーティストも多かったし、大学院生だけでなく、テニュア持ちも多かった。日本からは僕が参加し、また、日本サウンドスケープ協会の(として僕は認識している)平松幸三さんがKeynote Speakerとして招待されていた。平松さんとは初対面だったのだが、大阪生まれ大阪育ちの人で、話しやすい人だった。京大退職後もイギリスとエジプトで働いていたらしく、中川真さんより年上でもまだ現役で研究続けている人もいるのだなあ、と思った。
僕の発表もそこそこ好評だったようで何より。僕は国際学会ではずっと「1980年代の日本の環境音楽と2010年代の日本のKankyō Ongaku」の話をし続けている(最終的には吉村弘研究として仕上がるはず)(たぶん)。研究内容の進捗は亀の歩みだが、次は8月に台北で、その次はおそらく20206年夏にコペンハーゲンで発表する予定。次は「アンビエント・ミュージック」についてちゃんと考えよう。
主催はHanyang UniversityのMusic Research Center。Music DepartmentのDeanをはじめ、フルタイム雇用のスタッフが4人以上とそれ以外にもたくさんのスタッフや学生が関わっていた。1日目に、平松さんに初対面の挨拶をしている流れで、Kyenote Speakerを労う主催者たちのお昼ご飯に潜り込んで、準備されてあった二段重ねの豪華なお昼ご飯を食べさせてもらった。実は、韓国に来る数日前に、主催者の一人であるカイさんから学会に関する事務連絡がfacebook経由で来たので、それまで「いつどこでfacebookフレンドになったか分からない人」だったカイさんが、2016年にソウル大学で開催された国際美学会で一回挨拶して会話したことのある人だったことが判明していたのだが(こちらで会ったらすぐに思い出した)、他の主催者とも2016年にソウル大学で一度会ったことがあったことが判明した! カイさんは、奥さんとしばしば日本に観光旅行に来るらしく、酔っ払ったら日本語が出てくるらしく、来日するたびに本屋さんで買い物するので『サウンド・アートとは何か』を持っていてくれたりした。人とはどこでどんな風に再会するか分からないものだから、色々な人と話をしておいた方が良い、という僕の信条が、改めて確かめられた。
そこ(おそらくMusic Departmentの事務室? Deanの部屋?)で昼ごはんを食べながら、Sound Studiesの会議を開催するには資金を政府から得るのが大切だとか、できる研究者は健啖家なのだとか、そんな話をした。主催者の皆さんはそれぞれ、モンテベルディやモーツァルトを専門としているらしく、K-POP研究の人も音楽人類学を研究している人もいるが、周囲のmusicologistsからは攻撃されることもあるらしい。「Sound Studies」を標榜していこうという意思を持って戦略的に動いているようだが、その情熱はどこから始まったのだろう? もうちょっと話したかったが、今回はそういう時間は見つけられず。
特別セッションでは、主催者たちとは別組織であるACC Sound Lab at the National Asian Culture Center (ACC)という部署の人が、ここ数年間の自分達の企画を説明していた。クリスティーナ・クービッシュを招いてワークショップを行ったり、レクチャーしたりシンポジウムしたり、いろいろ継続的にやっているらしい。ということは、Sound Studies的な事業を行う拠点が韓国には複数ある、ということかもしれない(Abstracts – 한양대학교 음악연구소 https://mrc.hanyang.ac.kr/audible-futures/abstracts/#acc; Asia Culture Center - ACC News - General(상세) https://www.acc.go.kr/en/board/board.do?PID=1001&boardID=NOTICE&action=Read&idx=1855 10年ほど継続しているみたいな話だったけど、まとまったウェブサイトを見つけられない)。
僕も「こういうSound Studies conferenceを主催してみたい!」と言っておいた。口に出しておけばそうなるかもしれないので。でも、実際問題として、実現可能性はなかなか低そうだ。資金も場所も人も難しそうだ…。年度末あるいは年度初頭という時期だけに、この学会のためにパネルを組むのも難しそうだし、次回参加できるかどうかも不明だ。
ともあれ、こういう良い会議を主催してくれて、主催者には感謝、である。しかも、参加費も会食代もかなり安かった(それぞれ30,000ウォンだった。国際会議の参加費としては破格の安値というべきだろう)。
今回のKeynote Speakerは平松幸三さんとMark Katzさんの二人だったのだけど、それぞれけっこう違うアプローチだった。
平松さんのは、アラブとヨーロッパ(と時々アジア)における「ノイズ」の話。ノイズが色々な文化からどのように出現してきたのかを考えるきっかけとなるデカい話で、細かなところを突けばいくらでもつつけるけど、そんなことしても仕方ない。こういうデカい話はKeynote Seechとして良いもんだな、と思った。
Katzさんの話は、最近の自分の研究の一つをしっかりと話すもので、熟練した学者の職人技を見せてもらった、という感じだった。Japanese Jazz Kissa-inspired cafeが世界中で作られていて、そこでは"pure audition"が追求されている云々という研究で、IASPMとかで発表されそうな内容。それでKatzさんは昨年の夏に日本に調査に来ていたのか。また、この内容は『Capturing Sound』の増補改訂版に収録するらしく、2026年には公刊されるとのこと(初版が2004年で、すでに2010年にrevised editionが出版されているけど、さらにrevised editionが出版されるらしい)。僕も、日本のジャズ喫茶に触発されたShogunとかいう名前のカフェに行ってみたい。
Mark Katzさんと言えば、最近歓びのうちに関西から送り出された秋吉くんが、短期間留学していた際にお世話になった先生である。良い人だという噂は予々聞いていたけど、確かに、少し話しただけで、その誠実で優しそうな人柄は看取された(今回、香港から来た17歳の学生にプレゼントをもらったらしい。Mark Katzさん目当てで来たってこと?)。僕は発表で「最近3月20日に吉村弘のFLORAというアルバムがレコードとしてリリースされた、これはJonathan Sterneが残念ながら逝去したのと同じ日だ」という言葉を入れ込んだのだが、彼は反応してくれたし。彼は日曜に帰国し、月曜に授業があるらしい!
ソウルでは街歩きとかする時間はなく、宿と大学と空港あたりしか出歩かなかった。現金はほぼ使わず(ちゃんと下調べしていたらプリペアドカード購入で問題なかった地下鉄のチケットだけ、現金で購入した。そこも現金使わずに済ませていたとしたら、現金を使う必要はなかった)。クレジットカード社会だ。今回はdotolimや美術館にも行けなかったし、学会参加以外何もしていない。でも、もう帰宅の途上である。ちょうど良いタイミングで乗れたので、成田エクスプレスである。
帰りたくない。
新年度が始まるという事実に向き合いたくない。











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