2023-03-29

メモ:William Hellermann: Three Weeks in Cincinnati in December

1984年に「Sound/Art」という展覧会を開催したWilliam Hellermannという作曲家がいる。

作曲家がサウンド・アートの展覧会を企画した事例なので、例えば、作曲家の吉村弘さんがSound Gardenを開催した事例と比較できないものかと思って、その展覧会の開催経緯などを調べようとしているのだが、展覧会関連の資料はあまり残っていないらしく、Hellermannさんも2017年に亡くなったし、今のところ手詰まりである。
 
ともあれ、それでやっと、彼の音楽作品を初めてきちんと聴いてみた。最初は右の耳から左の耳に抜けていってよく分からなかったのだが、なんだか記憶に残ったので、何度か聞き返している。ミニマル・ミュージックの70年代後半の展開のひとつとして面白い、と思うようになった。

William Hellermann: Three Weeks in Cincinnati in December
これは、Robert Dickというフルート奏者のために、1979年にWilliam Hellermannが作った作品。タイトルは楽曲とは何の関係もないようだ。
Robert Dickはこの時期、色々な作曲家に自分のために作品を書いてもらっていたらしい。Hellermannはもともと電子音楽を作っていたが、70年代後半にはミニマリストなアプローチを採用してスコアで作品を作るようになったらしく、この時期、ソロ楽器のために作品を4つ作っていたらしい。これはそのうちのひとつ。Robert Dickならば演奏できるだろうということで、3つの特殊奏法を50分ほど続ける作品を作った。3つの特殊奏法とは、循環呼吸奏法[circular breathing for close to one hour]、横隔膜ビブラート[a continuous diaphragm tremolo]、重音奏法[a succession of beautiful yet very challenging multiphonics]。これがずっと続く。なんだか不安定に色々と音が移り変わる感じで、それが少しスリリングで良い。

スコアには常に、意図的に仕込まれたちょっとした即興的な要素[an intentional measure of semi-improvisatory unpredictability]があるらしく、あるページに4音の和音と斜め線のフレーズが書かれているとすると、そこには細かな指示があったりしたらしい(「言ったり来たりする」とか「できるだけ長く」とか「自信を持ってふらふらする」とか)。なので、なんだか不安定に色々と音が移り変わる感じが生じるのだろう。
しかしこれに慣れすぎると面白くなくなるので、Robert Dickは、1983年以降この作品をレパートリーから外したらしい(Robert Dickが自分自身の作曲作品に重点を移した、というのも理由)。

参考
:このライナーノートは、僕が初めて見つけた、William Hellermannについてある程度まとまって書かれている文章だった。今まで探していなかったことを反省。とはいえ、ここでも、なぜ彼がSound/Artを開催したのかは書かれていない。Interviews with American Composers: Barney Childs in Conversation (Music in American Life)という本にもHellermnnへのインタビューが収録されているらしいが、そちらではどうかな。

0 件のコメント: