2022-04-10

メモ:ヴィック・ムニーズ『ごみアートの奇跡[Waste Land]』(2010)

ヴィック・ムニーズ/ごみアートの奇跡 - Wikipedia 

ヴィック・ムニーズはブラジル出身の作家で、「1990年代初頭より、針金や砂糖、ダイヤモンド、チョコレート、色紙など様々な素材を用いて、歴史的な報道写真や美術史上の名作を再現した写真作品を発表してきた」作家。砂糖かシロップで描いたモナリザ像などがあるみたいで、実物を見てみたい。

彼が故郷のブラジルでゴミ拾いする人々とともに――正確には、彼らを利用して――、ゴミからアート作品(=ゴミを使って過去の名画を模倣したもの)を作成し(作成時には彼らに手伝ってもらって)、作成した作品を写真撮影したものをオークションで競売にかけ、オークション会場に彼らの代表を連れていき、5万ポンドで競り落とされる場面を見せる、というドキュメンタリー。第83回アカデミー長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。

ドキュメンタリーとしては、そのアート作品がいかなるものかといった問題に踏み込むものではない。ゴミとは何かとか、ゴミ捨て場で働くこととは何かとか、ゴミからアートを作ることとはどういうことか、とか、ゴミがアートワールドで5万ポンドになることの不思議さとか、そういうことについて見解が披露されるわけではない。なので、なんとなく「結局のところ、アートワールドとそれを成立させている資本主義に回収されてしまうドキュメンタリーに過ぎない」と切り捨ててしまいたくもなる。

また、ドキュメンタリーとして、そこで働いている個々の人生を鋭く見ている、といったドキュメンタリーではない。離婚して娘と会えなくなった母親とか不倫相手と別れたばかりの中年女性とか組合を作って頑張っている人とか5歳の頃からずっとこのゴミ拾いの仕事をして自分もシングルマザーになってゴミ拾いの仕事を頑張っている若い女性とか色々出てくる。でも、途中、ゴミ拾いの人たちの給料が銀行から引き出されてすぐ強盗に強奪された、というエピソードが出てくるのだけど、その後どうなったかの説明がゼロだったりする。

つまり、あくまでも、これはヴィック・ムニーズという人の活動記録としてのドキュメンタリー。なのだけど、実はそこまで悪印象は抱かなかったのは、このヴィック・ムニーズという人がなんだか色々と正直に語っているように僕には見えたから、かもしれない。

最初の方で、ゴミ拾いの人たちとお近づきになるときにムニーズさんは「自分は成功したから還元したいんだ」と言っていたのだが、見ていて、なんだか無意識的に高慢に偉そうだなあ、でもよくまあこんなこと正直に言えるもんだなあ、などと思ったし、最後の方で、貧乏とか金持ちとかじゃなくて一生懸命頑張っているから良いんだ(大意)とか「人助けのつもりだったが高慢に思えてきた」とか話していて、なんだか雑駁だけど正直な人なのかなあ、などと思ったからかもしれない。

アートとは思いもかけない出来事を生じさせる活動なのだとすれば、ヴィック・ムニーズの活動もまさにアートなんだろうな、と思った。べた褒めするのは何か抵抗があるけど、〈しょせん資本主義とアート・ワールドの理屈に回収されるだけだ〉と腐すこともあるまい、といった感じ。

この人の感想がぴったりだな、と思った。→「ゴミ問題をどうするかという視点の映画ではなく、シンデレラのお話です。」 ヴィック・ムニーズ ごみアートの奇跡 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画 https://filmarks.com/movies/54548

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