2023-12-28

メモ:多井学『大学教授こそこそ日記』

 

すべての話題が思い当たる。切ない。20年以上前の鷲田小彌太『大学教授になる方法』(PHP文庫)がKindle Unlimitedで読めたので読んでみたけど、こちらは、大学教授極楽時代の代物で、ジェネレーションギャップが大きすぎて、それもまた切ない。

2023-12-22

メモ:坂本龍一展@ICC

坂本龍一展@ICC 今日の早稲田で年内授業最後。横浜に帰る前にICCの坂本龍一展を見る。お客さん多し。金曜夜だし坂本龍一だし。ICCの展示室のあの階段上がったところの右側の部屋を三分割しただけのスペースなのに、なんともゴージャスな展示だった。 「サウンド・インスタレーションという表現形態を用いること」の意義をどう考えれば良いかは分からない。坂本龍一の音楽の素晴らしさが際立つというか何というか。この音楽の素晴らしさに相応する程のあり方でサウンド・インスタレーションという形態を立ち上げることができたら、ものすごいことになっんじゃないか、あと数年時間があれば、など。 年末年始1週間の関西帰省までに、何をどこまでできるだろうか。

2023-12-19

メモ:村田沙耶香『コンビニ人間』

紙で持ってたのだけど、Kindle UnlimitedにあったのでKindleで読んだら、チョー面白かった。びっくりした。マンガ「阿武ノーマル」の人物造形の源泉はここにあったのか?!


2023-12-16

ChatGPT4を使う

Grammarlyの方が確かに専用ツールとして使いやすいけど、僕が使う程度なら、性能的にはChatGDP4で十分な気もする。解約しよう(解約しても残金返金とかないので、自動更新を止めよう)。

:Track Change GPTのご紹介 https://eibun-hikaku.net/topics/track_change_gpt.html

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中川 克志 - ChatGPT4にリンクを渡して「訳して」と伝えると、訳してくれなかったけど、以下の紹介文を作成してくれた。内容的には... | Facebook 


2023-12-10

ネトフリで映画『ミナリ』(2020)

帰りの新幹線で、午前のワークショップで名前を聞いた、韓国移民のイメージが変わりつつある映画の例らしい『ミナリ』。ネトフリで。  

移民が田舎で農家始めるなんて、ちょーたいへん、という映画。ところどころポール・トーマス・アンダーソンを思い出すショットがあり、美しい。自然も美しい。子役が可愛い。生活していくって大変。日々の暮らしってたいへん。
「日本には移民が少ない」ので、日本の農協とのやりとりはどうなるのだろう、という方向への想像力は、なかなか働かない。リアリティが無さ過ぎて。筒井康隆的な物語としてしか想像できない。

2023-12-03

メモ:松沢裕作『生きづらい明治社会』(岩波ジュニア新書、2018年)

語り口がとても平易で分かり易い。

景気変動する明治期社会において、小さな政府のもとで貧困階層や都市下層社会がどのような規制と倫理(あるいは「通俗道徳」)に絡み取られて生きていたか、を描いている(なので、当然、例えば明治期における近代洋楽受容の問題とか文学の話とかは、ない)。

話題の選別も含めて、とても良いジュニア新書。僕もこのように語りたい。

生きづらい明治社会――不安と競争の時代 (岩波ジュニア新書) | 松沢 裕作 |本 | 通販 | Amazon 

2023-12-01

メモ:梅田哲也「待ってここ好きなとこなんだ」@ワタリウム美術館

梅田哲也「待ってここ好きなとこなんだ」@ワタリウム美術館www.watarium.co.jp/jp/exhibition/202312/

ワタリウム美術館全体を使って組み上げられたツアーは熟練した才能の煌めきを感じさせるもので、若いスタッフも良い感じのチームで、ワタリウムを母艦にどこかに船出するみたいな感覚になってドキドキした。良いものだった。
ネタバレを避けつつ感想を書くのは難しいけど、最後、戻ってくると、タバコを吸ってダラダラ溜まっているみなさんの間を通り抜けなければいけない、というのは、ちょっといただけないのではないか。何とも良い感じに現実と見立ての異界の狭間を感じながら歩いていたら、建物の入り口に溜まっていたひとたちに「良かったでしょ」と言われて面食らうのは僕だけじゃないのでは。喫煙所は別のところにしたら良いのではないかしら。
(長沼さんには会えませんでした。後期も行くので、縁があればその時に。)

メモ:柏野牧夫『空耳の科学』(ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス、2012年)

空耳の科学~だまされる耳、聞き分ける脳~ | 柏野 牧夫 |本 | 通販 | Amazon 

早稲田通勤行きの一時間強で点検読書。とはいえ、前に読んで新書とはずいぶん印象が違う(I am alive.: メモ:大黒達也『音楽する脳 天才たちの創造性と超絶技巧の科学』(朝日新書、2022年) )。文化的あるいは人文学的な事象に、変に踏み込んでいないからだと思う。

聴覚の生理学の現在(2012年)について高校生に語った講義録。数学的内容は飛ばしたけど、面白かった。高校生としてこの講義を受けたら刺激的だったろうなあ。

この内容を僕は自分の研究にどう活かせるだろうか。


2023-11-26

メモ:小林元喜『さよなら、野口健』(集英社インターナショナル、2022年)

https://amzn.asia/d/j5dEhdN

ここ1、2年「ソロキャンプ(の準備をするだけでまだ行ったことは無い)」という趣味を持っていたのだけど、最近さらに「登山(したいなと思うだけで特に準備は始めていない)」という趣味も始めたので、娘が図書館でゾロリをたくさん借りる時に、僕も登山の本を何冊か借りて、昔何かの書評で読んで名前だけ覚えていた『さよなら、野口健』という本を読んだ。とても面白く一気読みした。なんとも痛切な本だった。これは人物ルポなのだけど、人物ルポとしてのみ面白いというわけではなく、なんとも説明にしにくい本だった。

野口健という人のことはあまり知らず、エベレストに登ったりするけど登山家として超絶技巧の持ち主では無いらしいとか、ネパールの10代の女の子と結婚しようとしていたとか、猫を空気銃で撃っていたとかそういうことがSNS上で言われていたことを知っていただけだった。読後、登山家としてすごいというよりも、登山するという行為を通じて色々な劇場型イベント(テレビ放送とか全国各地で講演活動するとか登頂ではなく清掃を目的とするエベレスト登山をするとか)を巻き起こすことがすごい人である、ということは本当らしい、と思った。だたし、後の二つはちゃんとした経緯と理由のあるエピソードだったので、SNSでは断片的に炎上しただけだというと思った。あと、政治家として出馬するかもしれないくらいのところまでいたけど、出馬はしていないということも知った。全体的にも、五カ国のルーツを持つ野口健という人がどういう少年時代を過ごして、アルピニストでは無いのに「山登りすること」を自分の人生のツール(?)に使うようになっていったかを丁寧に説明しているので、この本は、野口健の半世紀とその裏側(の暴露)みたいなものとして読める。人物ルポってやつである。

のだけど、時々、この小林という人が、どのように野口健に惹きつけられつつも反発し、野口健のマネージャーをやったり辞めたりを何度か繰り返したり、自分がうつ状態になって入院したり、といったことも書かれる。

野口健という人が登山という行為を(悪い言い方をすれば)ある種の売名行為のようなものとして利用しつつこの世の中で「何か」をするための原動力として利用している、という点は、おそらく唯一無二なのかもしれないので、人物ルポとしてこの本は面白い。だとすれば、時々入ってくるこの小林元喜さんのエピソードは邪魔でしか無い。だけど、この本の面白さは、この小林元喜さんがそのように自分のエピソードを入れる必要があったこと、そのことが感じられること、にある。

たぶん、野口健とこの小林元喜という二人の関係性は稀有なものというほどではなく、独立独歩で周囲を巻き込みつつ生きていく人とその周囲にいる人との間の相互依存関係、とでも言えるものだと思う。自分の夢を託すというほどでは無いにしても、エネルギー溢れる魅力的な人物と一緒に仕事することはそれなりに面白いし、エネルギー溢れる魅力的な人物は、やたら神経質でパワハラ気質だったりもすることはよくある。そんな時、エネルギー溢れる魅力的な人物の周囲にいる人は、病んでいく。みたいな。

そういう関係性は身の回りに結構たくさんあるし、そんな関係性に巻き込まれていても人はそれなりに自分の世界を確保してうまいこと生きていったり、あるいは、そこから離脱して別の場所を求めたりするものだと思うけど、小林元喜さんは、鬱とかで精神病院に入院したり、他の仕事に就いたりした後に、さらに、「野口健について丁寧に書く」ということをする必要があったらしい。そのこと自体がなんとも痛切だった。「あとがき」の最後で野口に感謝するくだりに感動。




2023-11-03

メモ:村上龍『イン ザ・ミソスープ』

 


娘が体調を崩し一日、家で過ごす。何かあったらすぐ動けるよう、気楽(?)に読めそうな本としてこれを読む。ブックオフで買って積読してあったらしい。たぶん未読。1996年の年末が舞台(キッズ・リターン公開の年)。あとがきによれば、連載中に神戸連続児童殺傷事件(1997年)があった。

色々と懐かしかった。アメリカ人用の東京のナイトライフガイドブックには日本で食事すると何でも高いと書いてある、という記述があり、そういや90年代はまだそういう感覚だったことを思い出したり。00年代半ばまでそんな感じではなかっただろうか。あと、この頃の村上春樹は、海外と比較して日本の卑小さとか俗物性についてチクリと述べるタイプの芸(あるいは批評)が魅力の一つだったこととか、人間の感情の機微に関する描写が上手かったこと(「悪意は、寂しさや悲しさや怒りといったネガティヴな感情から生まれる。何か大切なものを奪われたという、からだをナイフで本当に削り取られたような、自分の中にできた空洞から悪意は生まれる。」(127)といったタイプの文章)などを思い出した。高校生の頃はこれがとても魅力的で、坂本龍一との対談(『EV. café: 超進化論』)も線を引きながら熱心に読んだものだった。今読み直すと、(鋭い文化批評だ!とかはもちろん思わないのだけど)こんな批評みたいな記述が受けていた時代があったなあ(そして僕も真剣に受け止めていたなあ)と思って、なんとも懐かしい。
ああいうのは80年代文化の産物だけど、1975年生まれの和歌山の高校生には、90年代になって文庫化されてから届いたのだった。まだネットのなかった時代で、岩波文庫が売っている本屋さんは和歌山市には2つしか無く、『CUT』が創刊された頃の話。ああ、懐かしい。
村上龍も北杜夫や井上ひさしや井上靖みたいな感じなのかもしれない。でも、先月大学のゼミで、村上龍『69』を読んだことがありあれは面白かったと学生が言っていたので、まだ、すっかり忘れ去られているという感じではないのだろう。存命だし。そういや最近新作出してたし。

2023-11-01

ジョン・ケージの絵本『Beautiful Noise: The Music of John Cage』

 Amazon | Beautiful Noise: The Music of John Cage | Rogers, Lisa, Na, Il Sung | Music https://www.amazon.co.jp/-/en/Lisa-Rogers/dp/0593646622

Lisa Rogers, Il Sung Na. 2023. Beautiful Noise: The Music of John Cage
ジョン・ケージの絵本。Beautiful Noise到着。どんな音でも音楽として聞いてみてごらん、そしたら、あなたはケージみたいだね、という絵本。
音楽じゃない音はどうなんだ?という立場もあるので、〈この円本はmusicalizationな操作を世界に施すことを良しとする考え方だ〉と判定できるけれど、まあそういうことは別として、キレイな絵だから、子どもがケージという人がいたらしいと知るためには、良いのかもしれない。
偶然性という言葉が出てこなかった気もする。


2023-10-27

メモ:大黒達也『音楽する脳 天才たちの創造性と超絶技巧の科学』(朝日新書、2022年)


 早稲田出勤時に、早稲田に着くまでに点検読書。1時間15分。共感覚と音楽療法への記述を利用すべし。

この「科学」と僕とは話が通じないのはなぜだろう。この科学はトンデモ科学とかでは全く無くて、世界でも最先端の科学なのだけど、ここで語られる「音楽」や「芸術」について、全く共感できない。
ううむ。

2023-10-21

メモ:Kindle Unlimitedで阮光民(ルアン・グアンミン)『用九商店』(沢井メグ訳)

 そのうち購入する本のリストに入れていたら、Kindle Unlimitedに入っていた。ありがたく拝読。

これが台湾のリアルかどうかは分からないが、リアルじゃなくてファンタジーとして、とても良かった。コマ割りの妙も堪能した。

Uターンした田舎で、大規模ショッピングモールにもやられず、よろず屋さんやりながら地元の仲間と幸せに生きていけるなんて、ファンタジーとしか思えない。生計たつのかな? 車の維持費出るのかな? 田舎に生きていて飽きないのかな? 保険とか入ってるのかな? 子どもが大学に行きたくなったら通わせてあげられるのかな? Amazon使わないのかな? ネトフリ見ないのかな? 墓仕舞いしたくないのかな? 現実では心配事は尽きないものだが。

ーーーーー

沢井 メグ

漫画が伝える台湾のリアル : 台湾漫画『用九商店』を翻訳して感じたこと

2022.07.30

https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g02164/


2023-10-20

メモ:片岡純也+岩竹理恵「やじろぐ枝」

 会期 2023年7月6日[木]〜10月29日[日]

場所 横濱ゲートタワー・スタートギャラリー 2+4

ストーンズの新譜は、早稲田非常勤の帰りに、横浜駅からみなとみらいに行く途中のギャラリーの片岡純也+岩竹理恵「やじろぐ枝」を見ながら、聞きました。

この人たちの作品は、ゆらありゆらりな様々な力学のふらつく様子が、とにかくステキ。

ただ、前に見た新高島駅のBankARTではなく、でかいビルの一階の、道端から眺めるショーウィンドウに飾られていたので、あまりゆっくり堪能する感じではなかったです。残念。

横浜に住み始めて十年以上経ったけど、みなとみらいのあの辺って、すごいお金が動いてそうな場所だったんですね。初めて歩いた。実際にお金が動いてるのかどうかは知らないけど。横浜って、東京のどこかの街くらいには都会なんだなあ、たぶん、と思いました。

ストーンズは、僕が言うことはとくになし。みなさんの感想とか大喜利待ちですね。今の10代とか20代が聞いたらどう思うのか、を知りたいところ。「おじいちゃんの音楽」ってことは、僕が浪曲の広沢虎造を聴いて「かっちょいい」と思ったみたいな感じになったりするのかな?

メモ:オフショア第3号

 早稲田への出勤中に読了。特に有名でない人のインタビューが面白いので、僕は、これを読み続けていることに気づく。

オフショア第三号 発売のおしらせ | オフショア https://offshore-mcc.net/news/1405/

2023-10-13

メモ:野口悠紀雄『2040年の日本』


世界における日本の存在感は激低下する、医療と介護業界の存在感だけが目立つ、自動運転車が増えて自家用車が激減する、など。

2040年に退職する時に答え合わせしよう。

2023-10-06

メモ:ICCでのevala作品

先週金曜日、ICCでevalaさんの作品を体験。完璧な暗闇のなかで、完璧に構築された高音質な音響物をひたすら集中して聴取する経験。目を開けても閉じても何も見えない場所で、しかし、これほど高解像度の音を聞くと、目が見えなくても世界に関する情報は十分得ることができるのではないか、と勘違いしそうになった。

もちろん実際には、晴眼者だった人間が、文字や記号が読めなかったり身振り手振りなど音声ではない非言語情報がなかったりするとずいぶんと不便だと思うが、そのことを一瞬忘れてしまうくらい情報供給量が十分だと感じてしまう。なので、「耳で視ている」ように感じてしまう。
おそらく「耳で視る」というのは「耳を通じて明瞭に空間を認識する」という経験に近いのだろう。
この逆に「目で聞く/聴く」というのは、実はよくある。マンガのオノマトペとか楽譜とか言語とか、視覚的情報を通じて頭の中に色々な音を喚起する、というのが、それだと思う。耳で聞いた音を通じて視覚的に何かを知覚する経験、というのは、僕にはあまり経験がないが、どうだろう。
シナスタジア保持者で、例えば「サウンド・カラー共感覚(sound-color synesthesia:色聴)」保持者は、聞こえた音に色が付いて聞こえるらしく、高い音ほど明るい色に見える傾向があるらしいが。
今回のevala5作品は、
1:フィールド・レコーディングされた音源から仮想の音響空間を作るもの
2:鈴木昭男による音具の演奏を仮想の音響空間に構成したもの
のふたつに分かれるらしい。
雪を踏みしめている音が自分の頭の周りを回っているように聞こえる部分があり、その音量が大きくなると、自分が小さくなる/巨人が周りを歩いている、みたいな感覚になった。こういうのは、自宅で何度も繰り返し聴き込んでみたい。なんとかならないものか。
また、鈴木昭男さんの演奏は、その場に立ち会って体験することこそが面白いと感じてきたので、その演奏の録音物を再構成してこんなに面白くなるとは、驚いた。まるで昭男さんの演奏の真横にくっついて聞き耳を立てているかのような気にもなった。
ICCの無響室はこの狭さが良い。Nokia Bell Labsの無響室だとこうはいかない。
ICC | 《大きな耳をもったキツネ》 - evala (2013–14) https://www.ntticc.or.jp/.../works/otocyon-megalotis-2023/

2023-09-21

メモ:‎Emeka Ogboh『6°30′33.372″N 3°22′0.66″E』

‎Emeka Ogbohの「6°30′33.372″N 3°22′0.66″E」をApple Musicで https://music.apple.com/jp/album/6-30-33-372-n-3-22-0-66-e/1632208199

Emeka Ogboh。フィールドレコーディングに音楽をつけた作品。My Life in the Bush of Ghostを思い出す。他のアルバムはかっこいいリズムトラックのハイブリッドという印象。


ナイジェリアのラゴス生まれベルリンで活動中のアーティストとのこと。ベルリン移住後に故郷で録音したフィールドレコーディングに音楽をつけるようになったとのこと。サウンド・インスタレーションの制作経験はあったが、エレクトロミュージック制作のコースでAbleton Liveの使い方を学んでから作ったらしい。


Emeka Ogboh:都市は作曲家である | Ableton https://www.ableton.com/ja/blog/emeka-ogboh-the-city-is-the-composer/



そういや、この前初めて、My Life... にはインスパイア元の小説(?)があることを知った。 | ブッシュ・オブ・ゴースツ (ちくま文庫) | エイモス チュツオーラ, 福夫, 橋本 |本 | 通販 | Amazon

2023-08-22

メモ:北雄介『街歩きと都市の様相』(京都大学学術出版会、2023年)

soundwalking について考えるヒントとして入手。活きの良い若手研究者の研究書で、野心がでかくて、刺激的だった。街歩きという体験の全体性を解明したいという志に感心。
自由記述分析の詳細は不勉強な僕にはよく理解できなかったのだけど、街歩きしながらその体験を記述してその全体性を分析するために色々と実験手法を工夫していくところに興味を惹かれた。地図をオノマトペで記述するという研究方法があるのだけど、それも単なる思いつきで「なんとなく面白そうだから」という理由しかないのではなく、都市の多様なレイヤーのいくつかに焦点を合わせたり体験の記述の焦点を絞ったりするために、という方法論的な裏付けのある選択である(と記述できる)のも素晴らしい。当たり前なのかもしれないが、そういう方法論的な準備がしっかりしているのが勉強になった。
横国の学内でsoundwalkingを企画してみたいと思っているので、ご指導してもらえないものか。どこかでお話できる機会ないかな。


ところで。
この人、僕に似ている気がする。この人のほうが若いし、ヒゲもスッキリ整えているけど。
そういう意味でも一回お会いしてみたい。

ということはつまり、僕たちはふたりとも、トンツカタンのあまり喋らない人に似ている、ということである。
トンツカタン 櫻田(@tontsuka_tasuku)さんの返信があるツイート / X https://twitter.com/tontsuka_tasuku/with_replies

2023-08-12

メモ: 市川沙央『ハンチバック』

Amazon.co.jp: ハンチバック (文春e-book) 電子書籍: 市川 沙央: Kindleストア 

強烈な短編小説だった。時折溢れ出る作者の攻撃的な心情が本当に素晴らしい。「攻撃的」と評して良いかどうかためらうところではあるが、自虐的ではない。

小説のなかで展開される虚構は、主人公である身体障害者(あるいは作者)が夢想する理想、幻想、あるいは悪夢なのかもしれず、現実と虚構の重ね合わせとズレは小説の醍醐味のひとつなので、もう少し明解あるいは重層的にはできなかったのかと思いもするが、他の重度障害者から色々な同意や反発を惹起するだろうと思えば、それはなかなか良いことなのかもしれない、と思ったり。

2023-08-02

メモ:エリオ・オイチシカ(Hélio Oiticica, 1937-1980)について

 今回のICA22 (2023)のWed 3:30 pm – 4:30 pmに、知り合ったミゲル(MIGUEL DUARTE)が発表したパネルでは、3人ともHélio Oiticicaというアーティストについて発表していた。


MIGUEL DUARTE | BRAZIL
After the End of Art History, is Time for Art Geography?: Helio Oiticica, Paulo Nazareth and the Geopolitics of Contemporary Art
MIGUEL GALLY (moderator) | BRAZIL UNB – University of Brasilia
Hélio Oiticica, Space, and the Collective Genius
PAULA BRAGA | BRAZIL UFABC – Federal University of ABC
Hélio Oiticica as a Brazilian Scene of Rancière’s Aesthetic Regime of Art

不勉強で知らなかったのだが、エリオ・オイチシカという人はブラジル現代アートにとってとても重要な存在。
Hélio Oiticica – Wikipédia, a enciclopédia livre https://pt.wikipedia.org/wiki/H%C3%A9lio_Oiticica

50年代に活動を始め60年代に世界的に有名になり1970年にはNYに移住したり。おそらく日本でも有名なのは、このひとの作品をきっかけに「Tropicalismo」運動が命名されたこと、ではないか。

カエターノは、1968年に発表したアルバム『アレグリア・アレグリア』(原題:Caetano Veloso)に、「Tropicália」という自作曲を収録。同曲は、撮影監督のルイス・カルロス・バヘットLuiz Carlos Barreto)が、エリオ・オイチシカHélio Oiticica)によるインスタレーション作品「Tropicália」に着想を得て、カエターノに進言したことからタイトルが決まり[1]、最終的にはムーヴメント自体を指す呼称となる。カエターノは、当時の自分にインスピレーションを与えた作品として、1967年公開の映画『狂乱の大地』(原題:Terra em Transe、監督:グラウベル・ローシャ)を挙げている[1]
とのこと。
Miguelから、ブラジルにはフルクサス第2世代しかいないんだとか、オイチシカはローリング・ストーンズを好きだったようだ、とか、Tropicáliaという音楽を知ってるか、とか聞いて、そのときにはなんだかあまり分からなかったのだけど、とりあえずApple Musicで「トロピカリア ベスト」というプレイリストを再生しています。


オイチシカに関する日本語のリソースを探したが、一般書レベルでは見つけられず。研究論文は多少あった(少ししかなかった)。
なので、とりあえず「居村匠」と「山野井千晶」と「飯沼洋子」いう名前を覚えておくべし。どなたも(たぶん)面識はないけど、どなたも美学会や表象文化論学会で活動しているみたいなので、どこかでお会いすることもあるだろう。今回のブラジルでの国際美学会には参加していなかった。ブラジル、高いし遠いしね。

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2022年7月3日パネル6 近現代ブラジルにおける芸術と「遊び」の精神 | 第16回大会 | Conventions | 表象文化論学会 https://www.repre.org/conventions/16/panel6/

居村 匠 (Takumi IMURA) - マイポータル - researchmap https://researchmap.jp/imuratakumi
居村 匠 (Takumi IMURA) - エリオ・オイチシカ《トロピカリア》における 侵襲性と〈食人の思想〉 - 論文 - researchmap https://researchmap.jp/imuratakumi/published_papers/19583985?lang=ja

山野井千晶さんはresearchmapが見つからず。

飯沼 洋子 (YOKO IINUMA) - マイポータル - researchmap https://researchmap.jp/yokoiinuma
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なんかみんなすごいなあ(と他人事のように言ってみる)。
(あまりおっさんが若者に「すごいすごい」と言うのもパワハラっぽくなるらしい。と若者から注意された。難しいもんである。)
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当日中の付記
2008-2009年の東京都現代美術館の展覧会の存在が大きそう。

2023-06-24

メモ:鈴木昭男"いっかいこっきりの「日向ぼっこの空間」”出版記念イベント

鈴木昭男さんの《日向ぼっこの空間》(Akio Suzuki’s "Space in the sun”)のあの場所の録音のリリースを記念して、パフォーマンスとトークイベントがあった。久しぶりに電車に乗り、混雑する渋谷と下北沢に行き、昭男さんのパフォーマンスと話ぶりを堪能。

昭男さんは町の人に説明するところから始めて、東京から網野町に引っ越し、手伝ってくれる仲間や町の人の手助けも得ながら、レンガを造ってそれを山の上まで運んだわけで、たった一日だけ自分だけが音を聴くというただそのためだけの場所を、一年以上かけて作り、春分の日に一日中ただひたすら耳を澄ませたという。それが《日向ぼっこの空間》。なんか不思議なのだけど、《日向ぼっこの空間》は鈴木昭男以外の人もその場所で耳を澄ませるために作られたのではなく、あくまでも鈴木昭男だけが耳を澄ませるために作られたわけで、つまりはこの作品は、町の人や手伝ってくれる人などたくさんの味方を巻き込んで制作したものだからソーシャリー・エンゲージド・アートと言えるようなものなのだろうけど、参加型アートとかではない。

まあそんなアートの分類話みたいなことはどうでも良いのかもしれない。とにかくこの伝説的な作品の効果は絶大で、一言でいえば、この作品は〈音を聴くことは面白い〉というメッセージを発信し続けている。今日も僕は、《日向ぼっこの空間》について語るトークイベントに参加し、パフォーマンスも見て、〈音を聴くことはこんなに面白いのだな〉という意を新たにした。

いつも海外にいるイメージの恩田さんがいたり、打ち上げの席に少し参加させてもらったり、多くの方とお話できた。久しぶりに日付変わってから帰宅した。

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鈴木昭男"いっかいこっきりの「日向ぼっこの空間」”出版記念イベント

https://www.art-into-life.com/phone/news-detail/24

鈴木 昭男(サウンドパフォーマンス): 川崎 義博 (トーク)

日時 : 6月24日(土) 開場 18:00 開演 18:30 (当日は作品の販売を行います)

会場:下北沢アレイホール

料金:3,500円 (当日のみ)

主催/お問合せ : Art into Life / info@art-into-life.com

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一人で食べる吉野家のなんとうまいこと…!

2023-05-11

メモ:研究室でMBAにUSキーボードを接続し、Karabinerで修飾キーを設定するときについて。

付記(2023年5月17日)

久しぶりに接続したら、英語キーボードなのに日本語配列で入力された(Shift+2で「 @」にならない、など)。Karabinerを停止すると、英語版キーボードとして入力される。とはいえKarabinerを使わないわけにはいかない。

Karabinerでちゃんと使用キーボードを英語キーボードであると明示的に設定すべし!!



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以下、ちょっとしたメモ。要するに、 Karabinerで設定するなら、OSデフォルトの機能で修飾キーを変更するのは辞めておいた方が良い、ということ

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研究室でMBAを使うとき、今は、かやこからもらったUSB接続のHHKBを使っているが、これはUSキーボード。

このままだと、日本語入力と英数入力の変換が面倒。デフォルトだと「Control+スペース」とな離、二つのキーを押さないといけないし、明示的に英数入力とかな入力を指定できないし、 Controlキーは commandキーとして使いたい。

なので、Karabinerを使って、◇が刻印されているキー(=commandキー)を「英数」キーと「かな」キーとして設定する。

Karabiner-Elements https://karabiner-elements.pqrs.org/

また、 Controlキーを commandキーに設定する。

このとき、一つ注意点がある。

Macのデフォルトの機能でも修飾キーの機能は色々と設定できる(「システム設定>キーボード>キーボードショートカット>修飾キー」)。Karabinerで設定する場合は、ここはいじらないほうが良い(=デフォルトにしておくのが良い)

じゃないと、なんだか変なことになって、僕は今日、 1時間ほど、commandキーなしでタイピングする必要があって、とても面倒だった。


どうやら何か違う。使用キーボードを明示して、キー交換を指定すれば良さそう。

たぶん。



2023-04-21

自分への励みと促しとして、2022年度の仕事と2023年度の予定(願望)の備忘録

 (今年度から「年度」単位で書いていく。なので、今回だけ、紀要を二年度分メモしておく。)

2022年の業績の多くは2021年度までに書いたものだったので、今年度はあまり仕事しなかったような気もするが、でも忙しかったのだが、これはなんだろう。2022年度に書いたけど2023年度以降に出るものもあるので、こんなものなのだろうか。
単著を出すつもりだったが、出せなかった。でも初校ゲラはもう戻したので、夏までには出るはず! 「次の段階」に行きたい。
サウンド・スタディーズの教科書は今年度中にみなさんから原稿を集めて2024年度には出したい。Keywords in Soundの翻訳は亀の歩みのように進めている。
2023年度は何をどこまでできるだろうか。

以下、メモ。書誌情報に不備はあります。

書いたもの

中川克志. 2022a. 「サウンド・スカルプチュア試論――歴史的展開の素描と仮説の提言――」横浜国立大学都市イノベーション研究院(編)『常盤台人間文化論叢』8: 73-99. https://cir.nii.ac.jp/crid/1390291767840224512
---. 2022b. 「クリスチャン・マークレー再論:世界との交歓」東京都現代美術館(編)2022『クリスチャン・マークレー:トランスレーティング[翻訳する]』(東京都現代美術館、2021年11月20日-2022年2月23日)展覧会図録 東京:左右社:182-190. https://cir.nii.ac.jp/crid/1010576118624455810(←2021年度には完成していた仕事)
---. 2022c. 「日本におけるサウンド・アートの系譜学――京都国際現代音楽フォーラム(1989-1996)をめぐって――」『京都国立近代美術館研究論集 CROSS SECTIONS』10:48-58. https://cir.nii.ac.jp/crid/1520855656142876928

2023年の業績

NAKAGAWA, Katsushi. 2023a. “Case Study on the Process of the Popularization of Kankyō Ongaku: How Brian Eno’s ambient music has become known in 1980s Japan?.” Faculty of Urban Innovation (Yokohama National University) ed. Tokiwadai Journal of Human Sciences, 9: 75-91. (『常盤台人間文化論叢』9: 80-91) http://doi.org/10.18880/00015178


翻訳したもの

:クリスチャン・マークレー展覧会図録に収録された三本
クリスチャン・マークレー&ダグラス・カーン「クリスチャン・マークレー初期 インタビュー」(2003年) 中川克志(訳) 東京都現代美術館(編)2022『クリスチャン・マークレー:トランスレーティング[翻訳する]』:196-202。
クリスチャン・マークレー&刀根康尚「レコード、CD、アナログ、デジタル」(1997年) 中川克志(訳) 東京都現代美術館(編)2022『クリスチャン・マークレー:トランスレーティング[翻訳する]』:203-209。
ダグラス・カーン「サラウンド・サウンド」(2003年) 中川克志(訳) 東京都現代美術館(編)2022『クリスチャン・マークレー:トランスレーティング[翻訳する]』:242-250。

学会発表

"Kankyō Ongaku: How Brian Eno's ambient music has become known in 1980s Japan?"  Session 4-4 of International Association for the Study of Popular Music, at Daegu in Korena. 1330-1400, July, 6th, 2022. http://iaspm2022.org/index.php?gt=pro/pro02

その他の話したこと


1.ワークショップとレクチャー

【大分類】ワークショップ
【項目タイトル】「新しい楽器」を創りたい人のためのワークショップ
【日時・期間】と【会場】2022年8月14日(日)1300-1900は北区立中央公園文化センター(台風で当初予定の0813は中止)、11月23日(水・祝)1400-1630は赤坂区民センター
【説明文】クリエイティヴ・アート・スクール主催の「「新しい楽器」を創りたい人のためのワークショップ」で、毛利嘉孝(東京藝術大学)さんとともにファシリテーターをつとめた。二回目はレクチャーも行った。

2.トークイベント

【大分類】トークイベント
【項目タイトル】「クリスチャン・マークレーとオノマトペ」
【日時・期間】12 月03 日(土)1700-1900
【会場】plus1artギャラリー(大阪谷町六丁目)
【説明文】年末の「チャリティ&オークション」にあわせて、オノマトペを用いる作家クリスチャン・マークレーに関するトークイベントを開催した。

3. JASPM34シンポジウム司会、実行委員長

【大分類】シンポジウム司会
【項目タイトル】日本ポピュラー音楽学会第34回年次大会シンポジウム「ポピュラー音楽研究と「音」というフィールド:現代東アジアの文脈におけるサウンド・スタディーズの可能性」のファイリテーターと司会
【日時・期間】2022年12月17日1300-1700
【会場】東京芸術大学千住キャンパス
【説明文】JASPM34の実行委員長を務めるとともに、阿部万里江(Marié Abe)さん、大友良英さん、山本佳奈子さんが出演するシンポジウムの司会をつとめた。

4.フェリス女学院大学音楽学部 サウンドアート展「とけあうひびき」オープニング・トークイベント

フェリス女学院大学音楽学部 サウンドアート展 とけあうひびき|神奈川県民ホール https://www.kanagawa-kenminhall.com/d/ferris_soundart
【大分類】トークイベント
【項目タイトル】「フェリス女学院大学音楽学部 サウンドアート展 とけあうひびき」トークイベント
【日時・期間】2023年3月18日
【会場】神奈川県民ホール
【説明文】サウンドアート展のオープニングに合わせて開催されるトークイベントに参加する予定

中川克志先生/フェリス女学院大学音楽学部サウンドアート展「とけあうひびき」 オープニングトークに参加します。 - Y-GSC http://www.ygsc-studio.ynu.ac.jp/2023/03/post-20.html
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I am alive.: 自分への励みと促しとして、2021年度の仕事と2022年度の予定(願望)の備忘録 https://after34.blogspot.com/2022/04/20212022.html
I am alive.: 自分への励みと促しとして、2020年度の仕事と2021年度の予定(願望)の備忘録 https://after34.blogspot.com/2021/04/20202021.html
I am alive.: 自分への励みと促しとして、2019年度の仕事と2020年度の予定(願望)の備忘録 https://after34.blogspot.com/2020/07/20192020.html
I am alive.: 自分への励みと促しとして、2018年の仕事と2019年の予定(願望)の備忘録 https://after34.blogspot.com/2018/12/20182019.html


2023-04-11

トークの様子

3月18日に行った、【フェリス女学院大学音楽学部】サウンドアート展「とけあうひびき」@神奈川県民ホールのオープニングトークの模様です。扇風機には胸キュンするという話(9分ごろ)と、魔女の宅急便は最初の10分でクライマックスになるという話(1:10:15ごろ)をしたことは覚えています。この話はまた別のところでもすることでしょう。あと、展示作品とサウンド・アート全般についても話した。お時間のある方、どうぞご覧ください。瀬藤さんの見事な司会ぶりや難波さんのキュレイターとしての勘所みたいなお話も良かったです。

この背後でずっと鳴っているキュンキュンという音は、瀬藤康嗣+三浦秀彦《風が吹けば》の音です。この作品は、この展覧会の後はどうなるのかしら。

自分の姿は見慣れない。僕はトーク・イベントとかではこんな感じなんでしょうねえ。まだずっとマスクしていた時期なので、無精髭が大変なことになっていますが、今は少しマシになってます。もっと落ち着いて前だけ向いて話したら良いのに。

参考:トーク後の感想:I am alive.: メモ:とけあうひびき@神奈川県民ホール https://after34.blogspot.com/2023/03/blog-post.html

2023-03-29

お知らせ:展覧会「吉村 弘 風景の音 音の風景」(2023年4月29日より2023年9月3日まで、神奈川県立近代美術館鎌倉別館)

The exhibition of Hiroshi Yoshimura, known as the pioneer of Kankyō Ongaku, will be held at The Museum of Modern Art, Kamakura Annex, from April 29th to September 3rd, 2023. I hope this occasion will contribute to the acknowledgment of him not only as a composer but also for his activity in the visual art world.

日本のKankyō Ongakuの先駆者として近年世界的に再評価されている吉村弘さんの回顧展が、2023年4月29日(土・祝)〜2023年9月3日(日)に神奈川県立近代美術館鎌倉館で開催されます。2005年に開催されたときより、たくさんの作品が見れるみたいで、楽しみです。会期中には何度かパフォーマンスも企画される予定とのこと。

会期も長めなので、みなさま、行きましょう。吉村弘は「Kankyō Ongakuの作曲家」ってだけではなく、もっと幅広い活動をしていた人だ、ってのがよく分かると思います。

中川はこの展覧会関連の本に吉村弘さんに関する小論を書いたのですが、そちらは展覧会期終了後に出版される見込みです。でも、その本とは別に展覧会図録も作られるとのことです。安心!

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メモ:William Hellermann: Three Weeks in Cincinnati in December

1984年に「Sound/Art」という展覧会を開催したWilliam Hellermannという作曲家がいる。

作曲家がサウンド・アートの展覧会を企画した事例なので、例えば、作曲家の吉村弘さんがSound Gardenを開催した事例と比較できないものかと思って、その展覧会の開催経緯などを調べようとしているのだが、展覧会関連の資料はあまり残っていないらしく、Hellermannさんも2017年に亡くなったし、今のところ手詰まりである。
 
ともあれ、それでやっと、彼の音楽作品を初めてきちんと聴いてみた。最初は右の耳から左の耳に抜けていってよく分からなかったのだが、なんだか記憶に残ったので、何度か聞き返している。ミニマル・ミュージックの70年代後半の展開のひとつとして面白い、と思うようになった。

William Hellermann: Three Weeks in Cincinnati in December
これは、Robert Dickというフルート奏者のために、1979年にWilliam Hellermannが作った作品。タイトルは楽曲とは何の関係もないようだ。
Robert Dickはこの時期、色々な作曲家に自分のために作品を書いてもらっていたらしい。Hellermannはもともと電子音楽を作っていたが、70年代後半にはミニマリストなアプローチを採用してスコアで作品を作るようになったらしく、この時期、ソロ楽器のために作品を4つ作っていたらしい。これはそのうちのひとつ。Robert Dickならば演奏できるだろうということで、3つの特殊奏法を50分ほど続ける作品を作った。3つの特殊奏法とは、循環呼吸奏法[circular breathing for close to one hour]、横隔膜ビブラート[a continuous diaphragm tremolo]、重音奏法[a succession of beautiful yet very challenging multiphonics]。これがずっと続く。なんだか不安定に色々と音が移り変わる感じで、それが少しスリリングで良い。

スコアには常に、意図的に仕込まれたちょっとした即興的な要素[an intentional measure of semi-improvisatory unpredictability]があるらしく、あるページに4音の和音と斜め線のフレーズが書かれているとすると、そこには細かな指示があったりしたらしい(「言ったり来たりする」とか「できるだけ長く」とか「自信を持ってふらふらする」とか)。なので、なんだか不安定に色々と音が移り変わる感じが生じるのだろう。
しかしこれに慣れすぎると面白くなくなるので、Robert Dickは、1983年以降この作品をレパートリーから外したらしい(Robert Dickが自分自身の作曲作品に重点を移した、というのも理由)。

参考
:このライナーノートは、僕が初めて見つけた、William Hellermannについてある程度まとまって書かれている文章だった。今まで探していなかったことを反省。とはいえ、ここでも、なぜ彼がSound/Artを開催したのかは書かれていない。Interviews with American Composers: Barney Childs in Conversation (Music in American Life)という本にもHellermnnへのインタビューが収録されているらしいが、そちらではどうかな。

2023-03-27

2023年3月25日Percussion Sound/Shift vol.5@日の出町シャノアール

Percussion Sound/Shift Vol.5 | Facebook 

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日ノ出町のシャノワールで、Percussion Sound/Shift vol.5。楽しかった。普段は練習パッドでひとりで遊ぶくらいなので、久しぶりに人前で人と一緒に音を出すのは楽しいなあ、と。色んな人と会えたのも嬉しかった。
以下は長い感想です。
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これは、1600開始で2100終演まで20名くらいの打楽器奏者とドラマーが途切れなく入れ替わり立ち替わり、常時3−5名で演奏し続ける、というライブ。コンセプトはこちら。
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Sound/Shiftのコンセプトは、「ギャラリーの生けるインスタレーション」であり出演者が交代でプレイしながら「発展し続けるサウンドスケープ」を作るものである。演奏の多くが長時間にわたるものになるSound/Shiftは時には100人あまりものミュージシャンが、時間をずらして出入りしながら3~5人の集団をつくり、変化し続けるアンサンブルを生み出す。
Percussion Sound/Shiftはこれを打楽器奏者のみで行います。内容は完全即興です。詳しくはこちらをご覧ください:
今回の出演者:
10,000ケルビン, 石原雄治, 加藤哲子, 北山ゆう子, 左方まさよ, 清水博志, タカラマハヤ, 武田義彦, 露木達也, Cindy Drumsme, Eiji Nagamatsu, 永田砂知子, ノブナガケン, 平島聡, Marcos Fernades, ふーちんギド 他Nagamatsu, 永田砂知子, ノブナガケン, 平島聡, Marcos Fernades, ふーちん, yja、アンドモア!!
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同じジャンルの演奏家同士ならこういう企画はありそうな気がするが(みんなでジャンベを叩く、みたいなの。そういうのも一回参加してみたい。)、色々なジャンルの人がいるこういう演奏会はあんまりなさそうな気がする。
それぞれが1人30分演奏するというのを2セットする。ドラムセットは2台あり、ドラムセットだけの人も打楽器だけの人も両方する人もいた。シャノワールにあるピアノを触る人もいたり、声を使ったりする人も数名。演奏者の交代は10分刻みで事前に決められていて、10分ごとに演奏者の数は変化していく。僕の一回目の演奏は開始二時間後に始まり、「5人(ドラムセット2人)→ 3人(ドラムセット1人)→ 4人(ドラムセット2人)」と変化した。
誰がどんな演奏するのか、全体を事前に把握できる人は誰もいなくて、それぞれ事前にそれなりにある程度ネタを用意していても基本的には即興で、その場に生じている音の流れの中に飛び込んで、その流れに合わせて自分のリズムを加えたり、自分でペースを作って全体を少し変えようとしたり、周りとはまったく違う流れをひとりで出したり、していく。出演順は企画者(?)のマルコスさんが決めるけど、どんな音になるかを事前に予想出来るわけもなし。
複数で即興でリズムを出すと、リズムでアンサンブルを作ろうとする流れと、それぞれに独立したリズムを出していこうとする流れが出てくる。演奏者の交代時などリズムが途切れかけたりする場面もあるが、途切れるからといって聞き応えがゼロになるわけではない。全体の流れをまとめて引っ張っていこうとするリズムがあったり、そういうリズムに合わせていこうとする流れや、あえて別のリズムを出していこうとする流れがあったりもする。それぞれの演奏者がその場の流れ(≒サウンドスケープ)にどう合わせようとするのか/しないのか、どんなやり方で合わせるのか/合わせないのか、といったことが、面白い。ずっと、へー、とか、ほー、とか思って聞いてしまう。5時間ずっと途切れなくこれが続くのだけど、不思議なことに、驚くほど飽きない。緩急とか音色の多様性とか音の足し引きとかアンサンブルの駆け引きの妙が楽しい。色々な音楽家(あるいは打楽器奏者)がいるなあ、と感じ入る。
だけど、やはりあくまでも打楽器アンサンブルなので、コンガとかドラムセットがグルーヴィなリズムを演奏すると、どうしても盛り上がってしまわざるを得なくて、みんなノリノリになってしまう。それはそれで、もちろん、盛り上がる。かなり盛り上がる。
ただまあ、長いし区切りもないので、「全部見る」つもりはナシで楽しむのが良いと思う。僕はずっと見てたけど、時々息抜きして外に行くくらいが良かったのかもしれない。できれば、晴れた野外で他の演し物と一緒にできたらサイコーに面白いかもしれない。あるいはそれともやはり、これは、ライブハウスとかギャラリーとか、ある程度は集中して見れる場所でやるから面白いのだろうか。
まあ、こんな風に色々と言うだけなら簡単で、何にせよ実際に動いて出演者を集めて場所とかPAとか準備してきちんと告知してイベントを仕切るって、大変だ。マルコスさん、すげえ。ありがとうございました。PAとかドラムセッティングとか、杉本さん、みなさま、ありがとうございました。楽しく遊ばせてもらいました。
そういう場所で、僕がどういう打楽器奏者になるかというと、飛び道具的なことをするひと、になります。前回六本木のスーパーデラックスでvol4に参加したのが2014年9月で、その時は、打楽器を叩くのは途中で辞めて、新聞紙を細くちぎるパフォーマンスをする人になりました。その時はドラムセットも叩いたけど、たしか、サム・ベネットさんの指揮に従って演奏するドラマーになった。
今回もいつもの新聞紙セットとおもちゃでリズムを刻んだわけですが、1回目の出番で使った「押すと鳴く鶏」と紙飛行機は上手くできたと思います。新聞紙も楽しく叩けた。二回目の出番のシャボン玉はあまりたくさん出なくて、残念だった。新聞紙セットに取り付けた木片は、思ったより表情豊かだった。二回目の出番では、露木さんのドラムかっこいいなあと思いつつひらしまさんと3人で演奏した後に、ふーちんさんが出てきた瞬間、「おお、かっこいい、これは負けた」と思ってしまいました。勝ち負けの問題じゃないのだけど、後の時間は主観的には、他の人の演奏をずっと聴くモードに移行してしまってました。清水さんとふーちんさんで終える、というのは、上手い組み合わせだったんじゃないかと思います。
なんつうか、みんな上手いしかっこいい。自分は色物だという認識が強いので、「ドラムセットとか打楽器とかを一発叩いただけでかっこいい人」とか「ひとりでグルーヴを叩き出せる人」に憧れます。僕も50歳までに軌道修正できないものか。
小学生の時に岡林ロックンロールセンターのライブを見たことがあります、新聞紙叩いてましたよね、という20歳の大学生に会って、久しぶりに「教員と学生」というロールプレイの外側で20歳の若者に会って、少し混乱してしまいました。なんか、そういう感覚がすっかり薄れていた。不覚。ぜひとも5年後か10年後くらいまでに再会して、バンドに誘って欲しいです。20歳のくせにブルースとかばっか聞いているらしいので、Alabaster DePlumeをおすすめしておきました。マルコスさん、海くんに「Alabaster DePlume」という綴りを教えてあげておいてください。
楽しかった。